第22話 王子

いくつか協会から仕事の依頼が来た。これらもシークレットの仕事、周りには秘密にしなくては。


「周りのメスたちをメロメロにしてしまう魔物」


垂らした前髪、片目を隠し二重で常に動き続ける濡れた唇、流れるよだれ。セクシーな牛の魔物だ。彼はモテすぎて周りに迷惑をかけている。本人を説得、被害が減る。メガネ、帽子等お忍びの芸能人みたいになっていた。モテない努力をするのも意外と楽しいものだよと言っていた。なるほど、内面からイケメンなんだな、モテるわけだ。


「奇抜な服装を魔物にさせる魔物使い」


主にファッション関係の芸術家気質の魔物使い。魔物に話をしたら普段は服を着せないようになった。


「うんこを連呼する魔物使い」


魔物使いにとって糞は切っても切れない関係だ。なので糞糞いうのは仕方なし、言い方を変えさせることで問題解決。後日確認のためうんこ使いのところへ。


「うんち! うんち!」


よし、大丈夫だな。皆話せばわかる人達だ。


「仕事をお願いしたい」


今日も協会から仕事をもらう。しかしいつもと様子が違う。仕事の相談は高級料理店、更に秘密の部屋での密会となる。今回は余程内密にしておきたい仕事なのだろう。指定の日、馬車に乗り店の中へ。部屋の中には協会の人ともう一人、今回の依頼者だろうか。ここは周りから見えない場所、徹底してるな、そこまでして秘密にする仕事とは。


「異国の王女がこの国に逃げてきていてね」

「一体何が」

「私からお話しましょう」


ここからかなり遠い異国の地に住んでいた王女マヤ。成人してしばらくすると彼女に縁談の話が、相手は隣国の王子タマラ。しかし王子は非常にワガママでいたずら好きで手が付けられない、国の恥と言われるほどの人物。そんな人間と一緒にはなれないとマヤ王女はタマラ王子の顔すら知らないまま国から逃げ出してしまう。不憫に思った王は彼女の行動を見逃し、それだけではなく魔物使いでもある若い女騎士をお供につけ逃がす。王女も魔物使い、魔物使いは力の象徴でもある、王族、貴族、豪商は子供を魔物使いにしようとする。王女の身分は王家の者からただの魔物使いへ。説明してくれた人は長年王家に仕えている人。王女が心配で、しばらくは彼女の様子を見たいと王に暇をもらいこちらへ。


「マヤ王女が惜しくなって連れ戻すお手伝いを?」

「話は単純なものではなくて」


王女が行方不明になり破断、縁談の話はそれで終わる。この数日後王子が姿を消す。かなりの悪童だったからもしかしたら国が動いたのか、と思われたが民衆からは自業自得だむしろせいせいすると特に国に対し不満に思うこともなくそのまま忘れられていった。だがそんな彼がこの国に現れた。


「なぜこの国に現れたのかは不明。確認しようにも遠い国ですからすぐには」


王子に直接確認してしまうと国関係の話になり事が大きくなってしまう可能性があるためできるだけ内々で済ませたい。タマラ王子も魔物使い、王女と同じ様にお付きの若い魔物使いの男騎士と共に生活している。現在特に行動を起こすこともなく静かに暮らしているようだ。王子王女とも実名で生活している。同じ名前が多いから問題ないとか。そういえばタマラとマヤはよく聞く名前だな。


「あくまで自然に仲良くなり徐々に情報を引き出したい」


落ち着いて考えられるよう深呼吸、脳に酸素を送る。思っていた以上に大きな仕事が転がってきた。今のところはおとなしいか、でもどうなるかわからない。


「この件を知っているのは?」

「我々三人と協会の人間、合計十人です」


マジモノのシークレットの仕事だな。もしものときのために彼女の守備をする魔物使いには話をしたとのこと。すでに付近に配備しているとか。


「どうだい? やれそうかな」

「見るだけ見てみましょう」


とりあえず住んでいる場所を通りかかるだけ、難しそうならやめ、いけそうなら動く。仕事を受け、翌日彼が暮らしているところへ。脳内に付近の偽の目的地を用意、いざ出発。付近を歩く、歩道からタマラ王子の様子を伺うことができた。横目で見ながら家の前を歩く。


「ハハッ、ガスク、くすぐったいぞ」


ふわふわと宙に浮く雲のような魔物クラウドフラッフとスキンシップをしていた。いい笑顔だ、とても悪人には見えないが。魔物好きは放ってはおけないな、うむ、仕事を受けるとするか。仲がいいんですねーといった様子で自然に二人を見る。こちらを向いたガスクと目が合う。チャンスだ、アイコンタクトをしてこちらに来て遊んでくれと依頼、ガスクが承諾。


「ガスク、どこへ」


急に王子の側を離れこちらへ。シロが反応、向かっていって合流、お互いくるくる回りだした。男騎士が走ってこちらへ。


「すみません」

「いえいえ、こちらこそ。魔物達は仲良くなったようですね」


遊んでいた二体がこちらに、俺に飛びかかる。よーしよし、よくやってくれた、計画通りだな。シロがスリスリ、ガスクもスリスリしてくる。


(!? この感覚は!?)


新感覚の肌触り、ほぉ、クラウドフラッフはこんな感じなのか。気になり追加スリスリ、シロがもっととヤキモチ、おっとこうなりゃ同時スリスリだー! 


(もしかして我々の正体を知っている者かと思いましたが)

(ああ、どうやらただの魔物好きの魔物使いらしい)


ふぅ、満足。ハッと自分の目的を思い出す、いけない二人を置いてけぼりに。にこやかにこちらを見守っていた。どうやら大丈夫そうだ、よかった。


「こちらには最近?」

「ええ」

「歳も見たところ同じくらい、これもなにかの縁、困ったことがあったら言ってきてください。魔物使いは助け合いですから」

「ありがとうございます」


挨拶をしてその場を去る。やれやれ、ファーストコンタクトとしては成功か。危うく目的を忘れるところだったけど。

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