第21話 自分を魔物と思っている魔物使い

「いってきまーす」


今日は魔物使いはお休みの日、アリーがレンと一緒に街へ遊びに行った。歳が同じだから気が合うんだろうな、とても仲が良い。さて、俺はどうしようかな。森に行きシロをモフりながら考える。ファングが近づいてきて触れとねだる。まてまて、順番だよ。ファングの番、とてもザラザラしている、これが鮫肌ってやつか。本人は嬉しそうだ、皆甘えん坊だな。特に予定もないし協会にでも行くか。


「お仕事ですか、どうぞ」


受付から仕事の依頼書を受け取りテーブル席へ。協会には様々な仕事がある。アリーの街で手伝ってきたのもあって困っている人のお手伝いなんかを簡単なら受けるようにしている。ランクがあり高ランクの依頼は難易度が高い。レベルが上がると高ランクの仕事が増えていく。


「はて? これは」


依頼書を見ていると見たことがない文字に遭遇。シークレット? ゲームにはなかったな。受付さんに聞いてみる。


「他言無用のお仕事ですね、受けるのなら誰にも言わないようにしてください」


内密に済ませたい仕事か。ああいかん、気になるんだよねこういうの、好奇心旺盛というか昔からそう、よろしくないクセだ。


「まあ困っている人がいるのなら」


結局、好奇心に負け言い訳気味の独り言をつぶやきながら秘密の仕事の内容を聞くことに。協会の奥の部屋に通される。少しすると協会の人が入ってきた。


「アレスか。周りの人には言ってはいけないからね、すぐにわかるよ」

「はい」


念を押し少し脅してくる協会の人。たまに仕事をしていたから名前を覚えてくれたようだ。それもあってシークレットの仕事を今回ねじ込んだとか。


「ただちょっと厄介な仕事なんだ。無理なら忘れてくれ」


魔物使いの中に困った人物がいるという。


「自分を魔物と思っている魔物使い」


魔物のように街を四つ足で歩き言葉も魔物が発するような鳴き声を発するとのこと。街の人が気味悪がって協会に報告。彼は優秀な魔物使いで様々な仕事を受け数多くの人々を助けている。もしすべてそのまま話してしまうとショックを受け魔物使いをやめてしまう可能性がある。うまく彼を説得できる人間を探している。こうしてシークレットの仕事に。ペットが自分を人間と思い込んでいるというのはよく聞くけど反対はレアケースかもね。現代でそんなことをしていると日常生活ができなくなるし。しかしこの世界なら可能なのか、魔物使いはほぼ自給自足だからね、やれないことはないな。ただ、協力し合うことのほうが大事ではあるな。街の人に避けられるようになるのは確かにまずいね。


「どうする?」

「受けますよ」


夕方公園によく出没するということで、時間になったら公園に。アリーに出かけてくると伝える。口は固いほうだからそこはアリーに言いたい! などとうずきはしない。口が軽いの特性を持ってなくてよかった。公園に入る、いた、魔物を従え四つ足で歩く魔物使いの男性。


「がうっ!」


隣りにいるフェザーファミリアに話しかけているのかな、動きはぎこちない、なるほど、動きを真似て彼らのことを知ろうといているのか。勉強熱心な魔物使いの人だ。一生懸命な人が奇異の目で見られているのは複雑な心境。だが、確かに一般人の目には異様な光景に映るだろう。場所を選ぶようにと伝えればいいか。彼に直接言うのは気が引けるな、協会が言っていたようにショックを受けるかも。そうだこの方法なら、説得の仕方を思いついた。


(協会の人も来ている)


公園の椅子に協会の人が私服で座っていた、屋台で買った夕飯を食べている。隣に座り任務を遂行することを伝える。


(どうするんだ?)

(魔物を説得してみます)

(は?)

(よろしいですね?)

(……ああ)


歩いて近づきフェザーファミリアと会話をする。


「ガウッ(ちょっといい)」

「ガウッ?(どうしたんだい?)」

「バウッガウッ(かくかくしかじかでね、街の人が怖がっているんだ)」

「ガウガウッ!(わかった、場所は選ぶよう動いてみる)」

「が、えっ?」

(ま、魔物と会話している!?)


後日、彼は街では人間として普通の振る舞いをするようになった。仕事も前と同じように受けてくれている。ミッション成功だな。


「魔物と話をしたのか?」

「はは、まさか」


彼らは頭の良い生物だ、ニュアンスで察してくれる。そう、俺は何となく心で魔物と話しただけだ。彼も魔物から察して自らの行動を改めたのだろう、やはり優秀な人間だな。


(まさか厄介魔物使い四天王の一角をこうも簡単に片付けてしまうとは。もしかしたら彼なら)


協会からの帰り道、男女で組んでいる魔物使いの人が魔物とじゃれあっていた。


「パパとママが離れていたから寂しかったかい?」

「ガウッ!」


うんうん、パパママ呼びはよくあるよね。声も甲高い声で接している。かーちゃんの電話の声くらい。目が合ったので会釈する。隣人というほど近くの人ではないから名前はわからない。魔物の名前は知っているけど。

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