第14話 赤ちゃん言葉

「頑張ってくれているね。この区画の土地も自由に使ってもらってかまわない」


新たに土地をもらう。畑にしようかな。


「いつも助かってるよ、今日はおごるよ、どうする?」

「いきます!」


協会の仕事を終えると声をかけられおごってもらえることに。ちょっと高そうな料理屋へ。魔物達もいる、ここは魔物同席OKの料理屋。


「好きなものを食べてくれ」


メニューには肉料理が多い、周りの皆も肉を食べている。これにはこの世界の食料事情が関係している。世界各地に破獣がいるため肉は余るほどある。非常に安価でこの世界の人々の主食。しかし、穀物の生産は壊滅的、半年かかるのは致命的。生産量を増やすには広い土地が必要となるが破獣はどこにでもいて奴らは田畑を荒らす。広い土地を守り切るのは不可能だ。このため大量生産が難しいのが現状。畜産はおこなわれているがこちらも破獣のせいで放牧はできない。エサ代がかかるから乳製品、卵は高級品。野菜は肥料を得るために破獣がいる場所にいかなくてはならないからそこそこ高い。問題は穀物の加工品が非常に高いこと。この世界ではパンは高級品。そしてお酒は超高級品、一桁違う。金持ちや高貴な者の証として大金持ちや貴族が好んで飲んでいる。大衆店で頼むと寝言言ってんじゃねえとキレられるレベル。好きなものと言ってくれているがパンと酒は頼まないのが一種のマナーとなっている。おごってくれた先輩より高いものは頼まない的な。


「はは、相変わらず高いですね」

「もし作ったらこっそり呼んでくれ」


冗談に笑い合う二人。どちらも一応は作れる、少量だが野生種がある。森に自生する野生のぶどうから酒が造る事が可能。一般人は酒を作ることができない。魔物使いは酒造を許されている、売買はできない。そうだな、現代では未成年だったがここでは十五歳以上は成人扱い、お酒も自由。クラフトにお酒作りがあった、今度ぶどうを採集してお酒作りに挑戦しよう。


「失礼」


ちょっとトイレに。こっちには個室があるんだな。扉が少し空いている、閉め切っていなかったため中から声が漏れて聞こえてきた。


「今日は動きが悪かったな」


機嫌が悪そうな男の声が聞こえてきた。魔物に文句を言っているのかな、まさか魔物虐待か? 極稀にいるとか。去年も世界で何件か事件が起きている。ちょっと心配だ、移動をやめ聞き耳を立てる。


「そんなやつはこうしてやる!」


やはりそうか。扉を開け内部に突入。


「だめでちゅよ~、無理しちゃ」


フェザーファミリアに顔を埋め赤ちゃん言葉で語りかける男性。んん、機嫌が悪いのは無理して動いていたから? 魔物と目が合う。いつもこうなんだ、そっとしてあげてくれと目で語りかけてきた。わかったと目で返し音を出さないよう扉をゆっくり閉める。虐待のためじゃなく赤ちゃん語を使いたいからわざわざ個室をとったんだな。近くに来た店員さんがこちらを見る。俺の様子を見て悟ったようだ。お辞儀をして部屋に入っていった。席に戻り少しして料理が運ばれてくる。分厚い立派なステーキが目の前に。うん、美味しいな、いつも食べているものよりも風味が豊かで上品な味わい。さすが料理店、今の俺では敵わないな。


「私は大事じゃない?」

「大事だよ」


後ろから男女の声が。気配が三つ、ありゃりゃ、これは修羅場かな。あちこちに手を出すからこうなる、恋愛は一人に絞って真面目にやっておいたほうがいい、と爺さんが言っていた!


「その子と私とどっちが大事?」

「……お前だよ」

「今考えたでしょ」


ああ、もつれているな。もう一人はおとなしいタイプの子かな、さっきから二人だけで会話をしている、ちょっと気になる。置き方が悪かったか、肘に当ててナイフを落としてしまう。これはなんという偶然。俺は見たくて取りに行くんじゃない、ナイフを拾って戻るときに見えてしまうだけだ。椅子から立ち上がりナイフを拾う。戻るときに彼らが視野に入ってしまった。会話をしている男性と女性、そしてもう一人は。


「魔物といる人って皆そうなのかな」


フェザーファミリアが椅子に座っていた。そういうことか、まあよくある話だな!


「ごちそうさまでした」


拠点に戻り土地の確認、翌日耕して畑にしていくつか野菜を育てる。一ヶ月でできるなんてここらはゲーム的だな。どうせなら穀物も一ヶ月なら色々作れたんだけどね。毎日のように食べていたものが高級品とか、不思議な感覚だ。


「お酒を作ろう」


クラフトを確認。最低品質だと成功率がかなり低い。2ならできそうか、手間が掛かるがこちらで。森に入りぶどうを採ってくる。種を出し天日干しにする。レーズンになったら数日水につける。泡が出てきて甘味と少しの苦味が出てきたら酵母の完成。ぶどうを搾ってジュースに、酵母を入れアルコール発酵をさせる。発酵したものを土瓶に入れ密封、半年待つ。アリーの家へ向かっている途中、アルが何かを咥えてアリーに近づく。


「ありがとアル」


ネズミを退治してご主人に見せに行ったようだ。長いひげ以外は大きな猫のハープキャット。生態も猫そのもの。たまに作ったツボに体をねじ込ませ入っていたりする。脆いから一つ潰れてしまった。その代わりに彼が来てから食料をねずみにやられることはなくなった。それにかわいいからいいや、許す。俺にも懐いている、触れと腹を出してきた。もしゃもしゃと触っているとエンジン音を出しながら伸びて左右に転げ回る。ここで続けるとシャッと攻撃してくるのでやめる。猫は飼っていたから慣れたものだ。

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