第12話 世界一

あれからアリーは協会に通って勉強しているようだ。協会の一部は一般人にも開放されている。もうじき街を出発して試験を受けに行くのだとか。妙に彼女のことに詳しいのはあの日から毎日のように俺の拠点に彼女がやってくるからだ。まあ俺の活動を見るだけでも勉強になるしね、よいのでは。


「昼時だな、食べてく?」

「いただきます!」


肉が大量にあったのでお昼に誘う。肉や野菜を焼きバーベキュー。


「あつっ! けどオイヒー!」


アリーは活発で明るい性格の子だ。護衛がいるとはいえ破獣がいる森の中に入るくらいだから元気なわけだ。


「クラフトなんかに便利な魔物がいるけどアレスさんは使役してないね」

「それはな」


例えばラダービーストというはしご代わりになる魔物がいる。便利だがはしごで事足りる。仲間にする数は限られるから制作可能な物や別の方法がある場合、人間の力でも余裕なときは仲間にしないほうがいい。できる限り戦闘用に回したほうがいい、生き残り重視だ。近くにいる魔物だとこれにあたるのは伐採してくれる魔物とはた織り機になる魔物かな。


「はた織り機の魔物は仲間にしようと思ってました。言われてみると確かに。でも別れるという手もあるのでは?」

「長いこと一緒にいた魔物と別れられるかな?」

「うっ」


街の人に渡すために仲間にして協会に預けるだけでも正直つらいくらいだ。情が移ると離れるのは難しい。そこで詰む魔物使いもいるとか。俺も一周目は好き放題仲間にして別れることができなくなり戦闘に苦戦していたな、懐かしい。


「協会でも教えてくれなかったな~。よほど勉強したんですね」

「まあな」


勉強というか、かなりやり込んだからな。出発当日、拠点に挨拶に来たアリー。まだ時間があるということで軽く談笑してお別れの挨拶を。


「行ってきます」

「受かるといいな」


お辞儀をし拠点から出ていった。サバイバルは結構大変だから一発で受かるかはわからないところ。合格して運が良ければこの街に配属かもね。レベル上げの日々が続く。10になると最大六体まで仲間にできるようになった。畑でいよいよ収穫、まずはニンジンから。スポンと抜ける、小さい。現代のニンジンの半分以下の大きさだ。一つだけ少し大きなニンジンが生えていた。画面には野生のニンジン大1と表示されている。最大10まで。このニンジンをそのまま埋め戻す。その場合は一ヶ月で種ができる。そしてその種を蒔くと野生のニンジン大1が収穫できる。このように運の要素になってしまうが品種改良が可能。他甘さや苦みなど様々な項目がある。玉ねぎとキャベツも同様に大1があったからそのまま埋め戻し種用に。基本的には大きくしてから他を品種改良が鉄板。やはり質より量。野菜の品種改良は魔物使い料理人のこだわりどころ。しかも料理によって適性の項目が違うためかなり深めの沼となっている。俺は料理にはそこまではこだわらなかった。収穫し採れたての野菜で料理を作る。少し本格的な料理を作ってみるか。スピンバードのガラからコンソメを作り野菜と鶏肉団子のスープを作成。


「美味い、この世界に来て一番だな」


ニンジンがほろ苦く、キャベツは固めだがとても美味しいスープができあがった。やっと文明的な料理ができたことに感動。今までどんぐりのパンだもんな。一気に文明レベルが上昇したのを感じる。食事を終えハーブティーを飲み一服。こちらはコーヒーと同じでクラフトには無いもの。独自調合の俺ブランド、良い味に仕上がっている。夢見心地のまま就寝、起床。


「今日は銅を作ってみよう」


俺の世界にいよいよ金属が登場。銅鉱石が大量にあるのは聞いていた、加工はかなり大変だけど。本当は青銅を作りたかったが、近くに素材がない為諦める。ほぼ同じ方法でこれらも作ることが可能。フイゴと木炭が欲しい。


「フイゴはなめし革が必要か。……ひえっ、すごい工程数、手抜きバーションでも大変だなこりゃ」


時間がかかるな、皮と木炭づくりは同時進行になる。材料を確認、石灰は先に入手しておかないと。海へ行き貝を燃やし手に入れる。狩ってきた鹿の破獣の皮をなめす。多めになめしておこう、他にも使えるからね。


「さあて始めるか」


皮を水洗いして丸太の上に裏側を向けて置き肉を剥ぎ取る。次に石灰に漬ける。プールに貝殻石灰を入れ皮を入れ三日間漬ける。次の日は木炭製造の準備。木炭用窯の作成。粘土で煙突のある大きめの釜を作る。内部に薪を並べ、上部だけ空けて蓋をして火入れ。確率60%か、神に祈るしかないな。三日三晩燃やし続ける。


「そろそろ皮の方を」


なめしに必要なタンニン液を作る、木の皮を煮出してエキスを抽出。漬け込みが終わり次は除毛、毛を剥ぎ取っていく、終わったら灰液に漬ける。


「皮はまだまだかかりそうだな」


一日経過、木炭の燃焼はここまで、入口を閉じ窯を冷ます。皮を液体から取り出し、裏側を削る。プールをきれいにし水、皮、森で拾ってきたフォースバードの糞を入れる。一日経ってプールの様子を見る。クサッ、アンモニア臭が発生、悪臭が漂う。住宅街じゃなくてよかった。洗って裏側をまた削る。ここから一ヶ月タンニン液に漬ける。薄くなったら液を追加。


「木炭できたかな」


木炭の取り出し。入口を開けて中を確認。おお、うまいくいったようだ。窯から取り出し木炭同士を叩き合わせるとカキンと小気味よい音が鳴る。その後は日々レベル上げと畑、家の増築。皮を漬け終わり水に半日浸す。取り出し水洗いをして表面を削りながら水を絞る。汚れを取ってシワを伸ばし、破獣から取り出した脂分を塗る。乾燥の工程へ、皮が縮まないよう紐で引張り引き伸ばして立てかけ乾燥させる。そしてついに革の完成! 革作りは時間がかかるんだな。その間に家の増築が完了、倍の大きさに。畑もそれぞれ大1の種が取れ、種を植える。


「お次はと」


大きいサイズの革フイゴを作る。木の板を二枚加工、一つは空気の吸込口の穴を開け、空気が戻らないよう革で返しを作る。皮をフイゴに貼り付ける。先端に木の筒を取り付ける。木の枠を作りフイゴを固定し完成。上部を上げ手を離すと、自重で押され空気が流れる仕組み。しかし重いな、改良してしまおう。クラフトポイントを使って次のステージへ。滑車を作り、木の板に乗るとフイゴが上がる構造に。


「いよいよ銅が作れる」


炉を製作、木炭を大量に乗せ火入れ。温度が上がったら銅鉱石を砕いたものを入れ木炭も追加。長時間空気を送り続け熱し、頃合いを見てで火を止め冷やす。炉を破壊し下に溜まった物体から金属を探す。光沢があるものを見つけた、石で叩いても砕けない。銅だ、ついに銅を作ることに成功。


「まさか手作りすることになるとは思ってなかった」


現代では簡単に買えるからな。銅を眺める、この固さ、光沢、男のロマンではある。熱いうちに石で叩きながらハンマーを作る。鍛造炉を製作。残りを槍、ナイフに加工。さすが金属、石以上の切れ味だ。銅の槍を装備、攻撃力が上がる。銅を生産し銅の矢尻をいくつか作る。調理道具等を作る、土で作った鍋は壊れやすくてたまに地球に捧げる悲しい出来事が起きていたけどこれからはその心配をしなくてもよくなる。斧も銅製に、伐採、薪割りがやりやすくなり効率が段違いに。


「銅製品の生産は一段落だな」


毛付きの毛皮を作る。服とズボン、帽子を作成、防御力がアップ。ロックが地面に敷いた毛皮の嬉しそうに転がっている。ベッドとして魔物達に好評、いくつか作って床に敷く。用事があり協会へ。


「アレスさんですか。ふふっ、ますますたくましくなって」


受付のお姉さんに褒められて照れる。協会からの帰り道。


「ああ、うちだよ!」

「いやいやこっちだって!」


珍しいな、街の住人が言い争いをしている。皆優しい人達で喧嘩なんてしそうになかったんだけどな。衛兵さんが困った顔をして見守っていた。


「どうしたんです?」

「それが……」

「うちのコが一番だって!」

「うちだよ!」


どうやら自分のところの魔物が一番談義が盛り上がりすぎていたようだ。頼むよと衛兵さんが苦笑いしながら俺に仲裁をしてくれとお願いされる。


「お二人共喧嘩はいけませんよ」

「ま、魔物使いさん……」


気持ちはわかるが喧嘩は良くない。まずは深呼吸をして落ち着こう。悲しいかな、どうしても人は順位付けをしてしまう生き物。ただ一つ、ただ一つ真実があるとするのなら。


「うちの子が一番! 世界一!」

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