第11話 演奏会

赤子の頃とある森で魔物使いに拾われ今は孤児院で暮らしているというアリー。衛兵さんの目を盗んで森に入っているという。一応魔物が迎えに来るから安全ではあるようだ、それもあり森に入っているのを見逃している。魔物が護衛してくれるなら大丈夫か。そこまで魔物に好かれるとはもはや才能といえる。ゲームだと人間の個体によって好かれる嫌われるといったことはなかった。まあ交配はゲームにはないし違うところがあっても不思議ではない。違反のことは伝えたし仕事に戻るか。フォースバードを仲間にして協会に渡す。もう一往復したところで夕日が差してきた、明日には終わりそうだな。次の日、フォースバードを仲間にするために森の中へ。途中、フラワーフルート達の生息域を通ると大声で叫ぶ女の子の声が聞こえてきた。


「パット、パット!」


様子がおかしい。声がする方へ向かうと、アリーと一体の怪我したフラワーフルートがそこに。破獣に襲われたか。しかし魔物達なら追い返せるくらいの力はあるはずだが。近づき怪我の具合を見る、命に別状はなさそうだ。ポーションを与えると元気になり動き出した。他のフラワーフルート達が集まってくる。


「ありがとうございました」


いつもは十日に一度の演奏会だが昨日俺が入って途中で止まってしまったから彼女と仲が良い魔物が今日やりなおしたいと一体で彼女を迎えに行ってしまったようだった。今日に限って破獣が同時に複数体襲ってきて、彼女を逃がしている間に怪我をしてしまったとか。色々と重なってしまったようだ。この後彼女を孤児院へ送り届ける。院長先生に呼ばれ別室へ。


「話は聞きました。魔物の件は知ってはいたのですが、彼女の楽しそうな顔を見るとどうしても止められなくて。やはり破獣は危険ですね。今後は森へは進入禁止。魔物使いになりたがっていたけれど普通の職につくよう説得してみます」


そうだな、危険な職業は当然周りが止める。様々な情報を得て最後は自分で決めるわけだが、彼女はどんな選択肢をするのだろう。俺が考えても仕方ないか、仕事を続けよう、残り二体を協会に。


「ありがとう、とても困っていたんだ」


リスト全体を見る、全然足りてないからこれからも協力するとしよう。協会からの仕事を終えて拠点へ。さて今後はどうしようかな。せっかく広めの土地を貰ったし農業をやろう。ウィズの農業は少々特殊、野生の穀物や野菜の種を採集、その土地の土を畑に混ぜ栽培。早いものは約一ヶ月で収穫できる。畑作りからだな。森へ行きソリに土を乗せ拠点に運ぶ。まんべんなく行き渡ったところで畑を耕す。特殊な器具を作り畑に突き刺し、魔物に引っ張ってもらう。次は野菜の種を探す。年中温暖なためか種はいつでも手に入れることができる。野生のニンジン、キャベツ、玉ねぎの種をゲット、畑に戻り種を植え水を撒く。


「あとは待つだけと」


毎日の水やりと間引きをするだけ。穀物もあるが各種半年以上かかる。基本的には一ヶ月の野菜を作る方が量がはるかに多く取れるから穀物をつくる人は少ない。これからはレベル上げかな。ちょっと強い鹿に似た破獣と対戦、余裕だな。肉と皮が大量に取れる、肉はそのまま食べたり燻製にして保存食に、食べきれない分は売却。皮は売ってしまうか。その後数日はレベル上げ、たまに魔物を協会へ。協会からの帰り道、花をしならせとぼとぼと歩くフラワーフルート達を見かける。ああ、演奏会に行くのを彼女が断ったのかな。それにしてもなんというしょんぼり具合、この世の終わりのような顔をしている。もう来ないように冷たくあしらったのかも。なんとかしてあげたいが破獣がいるからな。人間の領地に来ないほうが彼らにとっても安全ではある、悪いな。今日はフォースバードの捕獲、途中耳が痛くなるような不協和音が流れる、よほどショックだったんだな。協会に魔物を渡し拠点に戻ると、入口でアリーが俺を待っていた。


「この前はありがとうございました。私はアリーです。ごめんなさい、こんなこと頼めるような間柄ではないんですが、パット達のところまで連れて行ってもらえませんか」


強く言い過ぎたのを謝りたいという。


「考えた結果やはり魔物が好きなんです。魔物使いになって堂々と会いにいきたい」


街の皆から反対され一度は諦めたけれども好きなものは好き。魔物使いになる決心を固めたようだ。いいんじゃないかな、やりたいことをやれば。危険な仕事だけど強くなれば破獣が暴れても抗うことができるからね、一般人ではただ食い殺されて終わりだ、前向きにいけばこういった考え方もできる。それに魔物に好かれる彼女は魔物使いに向いていると思う。ほら、今も俺の魔物達が彼女側にいる。他所から見たら彼女が魔物使いみたいになってんじゃん。お前ら俺の魔物だよね!? 嫉妬じゃないから!!


「薄っすらと記憶にあるんです。赤ん坊の私が魔物に助けられた記憶が。そのことも魔物使いになりたい理由の一つです」


しばらく魔物に育てられていたのかもな。


「わかった。彼らのところへ行こう」


彼女を連れ森の中へ。不協和音が聞こえてきた、相変わらず元気がないようだ。その中にアリーが入っていく。


「さっきはごめん言い過ぎた。本当は皆のことが好き。魔物使いになったらまた来るから待ってて」


しおれた花がみるみる張りを取り戻していく。


「ラ~ラ~」


今日は孤児アリー最後の演奏会。いつもより気合の入った笛の音が森の中にこだました。

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