第10話

 みんなで揃ってテントのある場所に戻りながら、昨日から今朝にかけての話をしたのだけど、どんなに本当だと言っても、大介と萌香以外は全く信じてくれなかった。

 そしてテントに戻ると、案の定また大人たちに怒られた。

 大人しく朝ご飯を食べていると思ったら、声もかけずにまた居なくなってしまった子供たちを、大人たちはまた慌てて探し回っていたらしい。


「今日これで2回目だぞっ⁉ いったい何回心配させれば気が済むんだっ、お前たちはっ! 川に行くなら声くらい掛けろとさっき言ったばかりだろうっ!」


 大介と萌香と私は、確かに今日怒られたのはこれで2回目だ。だけど、他の5人は1回目。

 とばっちりもいい所だけど。

 そのおかげもあり、何より今日がもうキャンプから帰る日になっている、という事実を知るに当たって、みんなようやく私の話を信じてくれた。


「不思議な事もあるもんだな。でも俺たちみんな、若菜の事だけは覚えてた、ってことだよな?」


 水着から服に着替え、帰り支度をしながら礼一がそう言った。


「確かに! だって私、若菜とはずっと一緒にいた気がするし」


 続けて、蘭もそんな事を言う。


「でも、わーちゃんは、こっちでひとりぼっちになっちゃったんだよねぇ? じゃあ、私たちが一緒にいたわーちゃんは、誰だったんだろう?」

「それな」


 不思議そうに首を傾げる奈々に、翔も腕を組む。


「若菜、実は双子、とか?」

「違いますっ!」


 樹の言葉を全否定すると、みんな可笑しそうに笑い声をあげた。


 不思議だったし、何より怖かったし不安だったけど、結局みんな戻って来てくれたし、なんだかんだ楽しかった。

 もっと一緒にここで遊びたかったなって思ったけど、子供だけでここに来ることはできないし、大人には大人の事情もある。

 私は後ろ髪を引かれる思いで、行きと同じく大介の家の車に乗って、キャンプ場を後にした。みんなそれぞれに疲れていたからか、車の中は静かだった。

 気づけばいつの間にか、私の胸のザワザワは消えて無くなっていた。


 自宅に一番近いSAで全家族が集合し、そこで挨拶を交わして解散ということになった。


「ねぇ、みんな覚えてるよね? キャンプ場での不思議な出来事」


 不安になって、私はみんなに聞いた。もしかしたら、あの出来事自体が、みんなから忘れられてしまっているのではないかと思ったのだ。

 だけど、みんなちゃんと覚えていた。


「忘れる訳ないだろ? あんな不思議な体験。今でも信じられないくらいだし」


 礼一が首を振りながら言う。


「そうだよ。それに、写真だってあるし。なぁ、翔?」

「お、そうだそうだ。ちょっと待ってろ、母さんからスマホ借りてくる」


 樹の言葉に、翔が車に向かって走って行く。


「そうだよね、でも一番大変だったの、きっと若菜ちゃんだよね? ひとりぼっちになっちゃったんだから」

「よく耐えたよねぇ、若菜。頑張ったね! 私たちが戻って来られたの、若菜のお陰ってことだもんね!」

「わーちゃん、エライ!」


 萌香、蘭、奈々に褒められて、嬉しいけどなんだか気恥ずかしい。


「お待たせっ! 持って来たぞ、スマホ!」

「どれ、早く見せろ」


 翔の隣から、すかさず大介が覗き込む。

 私も少し後ろから覗き込む。

 スマホの画面には、私が撮ったみんなの写真が写っていた。

 結局、私が写った写真を撮ってもらう事はできなかったけど。


「ほんと、楽しかったな」

「なんか、去年より楽しかったな!」

「うん! 来年もまた行こうぜ、みんなで」


 心なしか、礼一と大介と翔の声が遠くから聞こえたような気がする。

 あれっ? と思った時には、私はあの建物の前にひとりきりで立っていた。

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