第9話
テントに戻ると、3人で怒られた。
朝ご飯も食べないで、誰にも声もかけずにいなくなってしまった子供たちを、大人たちが心配してみんなで探していたのだ。
「川に行くなら声くらい掛けてくれないと、心配するでしょっ!」
「ごめんなさい……」
3人で謝って、それから一緒に朝ご飯を食べる。
食べながら、大介が小声で言った。
「マジで若菜の話の通りだったな。今日もう帰る日だぞ。俺、昨日の夜テントで寝てないのに! つーか、晩飯も食ってねぇし! つーか水着のままだし!」
「ホントだね。若菜ちゃんの話通りだったね。っていうことは……他の人? の分のお人形も、どこかにあるってことじゃないかな」
萌香の考えは私の考えと同じ。私は萌香に向かって小さく頷く。
「え? なんで? どういうこと?」
「それは後で説明する。とりあえず、朝ご飯食べ終わったら、3人で他のテント手分けして回って、人形探そう? 全部で5個あるはずだから。男の子の人形が3つで、女の子の人形が2つ」
「分かった」
「ちぇっ。後でちゃんと説明しろよ?」
私たちは急いで朝ご飯を食べ終わると、まだゆっくりと朝ご飯を食べている大人たちに気づかれないようにして、他のテントから人形を探し始めた。
「あったぞ! こっち2個、男の人形だ」
「私も見つけたよ、若菜ちゃん! 女の子の人形1個」
「私も。2個。男の子と、女の子1個ずつ」
大介と萌香にどこのテントからどの人形を見つけたかを聞き、名前を覚える。
人形に名前を書く訳には行かないから、それぞれの人形を別々に持つことにした。
「大介は、この男の子の人形と、女の子の人形持って。これは、礼一と蘭だから」
「レイイチとラン、な」
「萌香は、この男の子の人形持って。これは、ショウだよ」
「ショウ、ね」
「それで、私が持っているのは、奈々と樹」
「これで全部だな。よし、じゃあ行くか!」
『ボクも行きたい!』と着いてこようとする次人を『すぐ戻るから』と宥めすかし、私たちはあの建物へと急いだ。
建物の中に入ると、まず階段を上って2番目の部屋に入った。
「大介、そこに男の子の人形置いて」
「わかった。これ、レイイチ、だな」
言いながら、大介が人形を置く。
そのまま部屋を出ると、部屋の外には礼一が立っていた。
「礼一……? あれっ、礼一! お前、どこ行ってたんだよ!」
礼一の姿を見るなり、大介が礼一に駆け寄る。直前まで全く記憶にないと言っていたはずなのに。
「何言ってんだよ、突然いなくなったのはお前の方だろ? なぁ、若菜」
「えっとぉ……」
説明は時間がかかるからと後回しにし、次にみんなで階段を降りて、1階の一番奥の部屋へと向かう。
「萌香、そこに人形置いて」
「うん。ショウ、だよね」
礼一は怪訝そうな顔をしていたけれど、敢えてスルーして人形を置いて部屋を出ると、部屋の外には翔が立っていた。
「あれっ? みんなここにいたのか。突然いなくなるなよなー」
私たちの顔を見るなり、翔はそんな事を言う。
だけど、こちらも説明している時間は無いので、とりあえずみんなで隣の部屋、1階の奥から2番目の部屋に入る。
「大介、もうひとつの人形置いて」
「分かった。ラン、だな?」
礼一に加えて翔も怪訝そうな顔で何か言いたそうではあったけれども、これも敢えてスルーして人形を置いて部屋を出る。すると、部屋の外には蘭が立っていた。
「あーもー! なんで突然いなくなるのよー! めっちゃ探したんだからっ!」
蘭はプリプリ怒っていたけど、これも説明は後回しにして、みんなで次の部屋へと向かう。1階の奥から3番目の部屋だ。
「これは、奈々の人形だよ」
大介と萌香だけが、うん、と小さく頷く。他の3人は首を傾げているけど、やはりスルーして人形を置いて部屋を出る。すると、部屋の外には奈々が立っていた。
「いたっ! やっと見つけたよぉ。もう、みんな探したんだからねぇ! ね、わーちゃん?」
「……あはは」
奈々には曖昧に笑って誤魔化して、みんなで最後の部屋へと向かう。1階の一番手前、階段側の部屋だ。
「これは、樹の人形。おまたせ、樹」
小さく呟きながら人形を置き、部屋を出る。すると、部屋の外には樹が立っていた。
「あれ、みんなここにいたんだ? よかったな、若菜。みんなと合流できて」
「うん!」
「な、俺約束ちゃんと守っただろ?」
「そうだね」
きっと、樹は、『向こうにいる私』とも最後まで一緒にいてくれたんだな。
頷きながら、私はそんなことを思っていた。
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