第8話

 建物に近づくにつれて、やっぱり私の胸のザワザワが大きくなった。だけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。

 友達の、大切な友達の、大ピンチだ。動けるのは私しかいないのだ。私が動かないで、どうする!


 ひとりで建物に入るのはすごく怖かったけど、勇気を出して中に入った。

 玄関から入って正面に置かれた棚の上には、昨日と同じ着物を着た日本人形が置かれていたけれど、今度はあの『あそぼ』という声は聞こえなかった。


 中に入った私はすぐに階段を上り、2階の一番奥の部屋、大介が消えてしまった部屋に向かった。

 ドアは開けっ放しになっていた。だからそのまま入って、部屋の中央に、次人が持っていた日本人形を置いて、急いで部屋を出た。

 すると―


「わっ!」


 思わず声が出てしまった。

 だって、部屋を出てすぐのところに、大介がいたのだから。


「なんだよ、そんな驚いた顔して」

「大介? ほんとに、大介?」

「何言ってんだお前? 大丈夫か?」

「ねぇ、ほんとに大介だよねぇ?」

「当たり前だろ、大丈夫か若菜」

「うっ……うわぁーんっ!」

「おっ、おい、なんだよ、なにいきなり泣いてんだよぉ……」


 大介はいきなり泣き出した私に困ってオロオロしていたけど、私は構わず大泣きしてしまった。

 昨日までの不安が安心に変わって、一気に爆発した感じだ。

 でも、このまま泣いてばかりもいられない。人形はもうひとつある。

 私は泣きながら、大介に手を繋いでもらって、2階の手前、階段のすぐそばの部屋へと向かった。萌香が消えてしまった部屋だ。

 部屋に入ると、手前の棚の上に萌香の家族のテントから持って来た人形を置いて、急いで部屋を出た。

 すると―


「あれ? 若菜ちゃん! どこ行ってたの!」

「……萌香~……」


 大介の手を離し、私は萌香に抱き付いて泣いた。


「えっ? えっ? 若菜ちゃん⁉」


 大介に同じく、萌香も困ってオロオロしていたけど、私は気が済むまでそのまま大泣きさせてもらったのだった。



 ひとしきり泣き終わった後で、私は大介と萌香に、昨日から今までにかけての出来事を全部話した。

 でも、大介も萌香も、今ここにいない人の事は忘れているようだった。


「なんだその話。夢みたいな話だな。ていうか、ほんと俺知らねぇし。レイイチ? とかショウ? とかラン? とか」

「私も。大介と若菜ちゃん以外は、知らない名前ばっかり」

「そっかぁ……」

「でも、俺も萌香も、部屋に人形置いたら戻って来た、ってことだよな?」

「うん」


 よく分からないながらも、大介も萌香も、それなりに理解しようとはしてくれている。

 だけど、大介も萌香も、私にはよく分からない話をしはじめた。


「てかさ、俺今までずっと、お前と一緒にここで遊んでたんだけどな? あ、萌香もいたけど」

「うん、そうだよ。私たち、ここでずっと一緒に遊んでたんだよ?」

「えっ……」

「確かに、あの部屋に入った時に、な~んか変な人形あるなー、って思ったとたんに眠たくなった気がしたけど、気づいたら若菜がそばにいて、それでずっと一緒に遊んでたんだ」

「あ、私も! あの部屋に入った時、なんか埃っぽくてゴホゴホしちゃったけど、ゴホゴホしながら、可愛いお人形があるなって思ったの。それで気づいたら大介と若菜ちゃんと一緒に遊んでた」


 2人とも、何故かずっと私と一緒にここで遊んでいたという。でも私は、みんながひとりずつ消えていっちゃって、訳が分からなくて泣きながらみんなのおじさんやおばさんがいる所に戻って……

 もしかして、私の方が夢を見ていた、ってこと⁉

 でも、礼一も翔も蘭も奈々も樹もまだいない。

 これは、夢なんかじゃない!


「とりあえず、おじさんやおばさんの所に戻ってみない?」

「そうだな。若菜の話がほんとなら、もう今日は帰る日だしな」

「そうだね。お父さんもお母さんも心配してるかもしれないし」

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