第6話
「あと3部屋だね。さっさと終わらせよっか」
明るい声でそう言うと、蘭は奥から2番目の部屋のドアを開けた。
最初に蘭が入り、手を繋いだまま奈々、私、そして樹が入った。
そこは2階にあったものよりも小さめの寝室のようで、ベッドも小さめのものが2つ並んでいる。
ベッドの奥に置かれたドレッサーには、使いかけの香水の瓶が置かれていた。
「可愛い、この瓶!」
奈々が小走りにドレッサーに走り寄るから、私と樹も引きずられるようにして部屋の奥へと進んでしまったけれど。
「ねぇ見て、これ!」
奈々が香水の瓶を持って私と樹に見せる。
「奈々……」
私は奈々に、次の言葉が言えなかった。
奈々が手を繋いでいたはずの蘭の姿は、もう既に消えてしまっていた。
「蘭……」
「えっ? この香水、蘭の香りの香水なの?」
奈々がそう言って香水のふたを開ける。いい香りが部屋の中に漂ったけれど、私にはそれが蘭の香りなのか何の香りなのか分からなかった。
「若菜の様子からすると、今の部屋でもまた1人消えたってことだよね?」
部屋を出ると、樹が言った。
私は小さく頷いた。
「ってことは……えーっ! 5人も消えちゃった、ってこと⁉」
奈々は驚いて目を丸くしている。
「あと2部屋。ってことは、あと2人消える、ってことか。で、ここにいるのは3人。……誰が残るんだろうな」
樹が独り言のように呟く。その言葉に私は改めてゾッとした。
残る側の事を、全く考えていなかったからだ。
でも、考えて見れば、きっと私が1人残されるのだろう。だって、ここまでの事を全て覚えているのは、私だけなのだから。
「大丈夫。俺は絶対に最後まで若菜と一緒にいるから」
私の不安に気づいたのか、樹が力強く手を握ってくれた。
樹の優しさが私には嬉しかった。
だけど、私はもう気づいていた。樹も残り2部屋のどちらかで消えてしまうということに。
「次はここ、入ってみよう」
樹を先頭にして、手前から2番目の部屋に3人で入った。
樹、奈々、私の順だ。
「奈々も樹も、絶対に手を離しちゃダメだよ!」
無駄だとは分かっていたけれど、私は部屋に入る前に2人に念押しをしておいた。
そこは、さっき入った子供の部屋よりもさらに大きな子供用の子供部屋のようで、勉強机に本棚も置いてあり、壁際にはベッドも置かれていた。
私は奈々の手を離さないように気を付けながら、慎重に部屋の中を見回した。もしかして、どこかにブラックホールのような穴があるかもしれないと考えたからだ。だけど、そんなものは見当たらず、ちょっとだけ安心して前にいる奈々に声を掛けた。
「ねぇ、奈々。ちゃんと樹と手、繋いでる?」
「えっ?」
私の前にいる人が振り返る。
大分日が傾いて来て部屋の中も暗くはなってきていたけれど、その顔は奈々ではなく、間違いなく樹だった。
「ナナって、誰?」
「うそ……」
樹の不思議そうな顔を見て、私の心は更に絶望で覆われた。
だって私は、一度も奈々の手を離していなかったのだから。
「私ずっと、奈々と手を繋いでたのに」
「何言ってんだよ、若菜。お前が手を繋いでたのは、俺だよ」
「ねぇ、樹。もう、6人も消えちゃったんだよ⁉」
「さっきからずっとそんなこと言ってたな、若菜」
違う! 消えた人数を数えていたのは、奈々だよ!
そう言いたかったけど、きっと言っても樹には通じない。
「大丈夫だよ。さっきも言っただろ? 『俺は絶対に最後まで若菜と一緒にいるから』って」
樹はそう言ってニッと笑った。
「うん、そうだね」
私には、そう言うことしか、できなかった。
樹は嘘はついていない。
確かに、最後まで私と一緒にいてくれたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます