第5話
「ねぇ、みんなほんとに覚えてないの⁉ 大介も、礼一も、萌香のことも!」
みんなで部屋から出てから、私はもう一度、残ったみんなに聞いてみた。
ちょっと手を離した隙に、私と一緒にいると言ってくれていた萌香まで消えてしまったのだ。これはただごとではない。
無駄かもしれないとは思ったけれど、私はみんなに、これまで起こった事を全部説明してみた。
「確かに俺たちは7人でここに来た。それは間違いないと思う。だけど、それにしても2人足りないよな。誰がいないか分かるやつ、いる?」
困った顔をして、翔が他のみんなの顔を見る。
「7人ってのは、私も覚えてる。だけど、誰がいないかは……うちのお姉ちゃん、ではないしなぁ。お姉ちゃんはキャンプ自体来てないし」
蘭も困った顔をして首を傾げている。
「でもさ、わーちゃんの話がほんとなら、私たちは8人でここに来たことにならない? だって今ここには5人いるんだから。それで、消えたのは3人なんでしょ?」
奈々は不思議そうな顔をして、両手を使って数を数えている。
その時、樹が言った。
「そうだ。さっき入る前に写真撮ったよな?」
「確かに!」
翔が慌ててスマホを操作する。けれども、写真を見るなり絶望的な顔をして呟いた。
「……4人しか写ってない」
「うそっ!」
私も翔の隣からスマホを覗き込む。
だけど、翔の言うとおり、そこには私を除いた今ここにいるメンバーの4人の姿しか写っていなかった。
「ねぇ、もう帰った方が良くない? ちょっと暗くなってきたし」
奈々が心細そうな声を上げる。
「若菜の話がほんとなら、俺たちは友達を見捨てる事になるよな。俺はそんなことはしたくない。とりあえず、全部の部屋を見た方がいいと思う」
「まぁ、若菜の話は置いとくとしても、人数が足りないのは確かだしね」
翔と蘭の言葉に、樹も頷く。
「俺ももちろん、一緒に行くよ」
私には、どうするのが一番なのか良く分からなかった。
ここで一旦戻って、大人の助けを借りるのも手だ。だけど、こんな不可解な話を、大人が信じてくれるかどうか。
だから、翔の言うとおり、全部の部屋を見てみようと思った。もしかしたら、全部の部屋を見終わったら、全員戻ってくるかもしれないし。
話はまとまり、5人で固まって階段を下り、1階の一番奥の部屋へと向かう。
「じゃ、入るぞ。みんな、離れないようにな」
事前にみんなで決めたとおり、みんなで手を繋いで部屋へと入った。
先頭は翔、次に蘭、奈々、私、そして最後が樹。
そこは、最初に入った子供部屋よりは少し大きな子供用の子供部屋のようだった。
「あ、なんか落ちてる」
そう言って、蘭が床に落ちているものを拾い上げる。
私はハッとして、急いで声を掛けた。
「蘭! 翔の手を離さないで!」
顔を上げた蘭は、首を傾げて私を見た。
「ショウ? っ……て?」
既に、部屋の中には翔の姿は見当たらなかった。
私は絶望的な気持ちになった。
手を繋いでいてもダメなのだ。それは萌香の時でなんとなくは分かっていた。
その時になると絶対に、手を離さざるを得ない状況になってしまうのだ。
「あれ? じゃあ、消えたのはこれで4人ってこと?」
奈々が泣きそうな顔をして私の手を握りしめる。
「……うん」
「大丈夫。大丈夫だよ、きっと。だって俺達はほら、ちゃんと手を繋いでここにいるんだから」
樹が励ますようにそう言ってくれたけど、私の心の中には絶望が広がり始めていた。
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