第4話

 次に入ったのは、2階の奥から2番目の部屋。


「じゃ、入るぞ?」


 振り返ってみんなに声を掛けてから、礼一が先頭で部屋の中へと入る。


 続いて蘭、奈々が入り、私は萌香と一緒に手を繋いで入って、その後から翔と樹が入って来た。

 そこは書斎のようで、壁一面が本棚になっていて、本棚にはところどころに本が残されていた。


「昔はここに本がズラッと並んでたんだろうなぁ、きっと」

「なんか、いるだけで頭が痛くなっちゃいそうだね」


 翔の言葉に、萌香が顔をしかめる。

 その、萌香のしかめた顔が面白くて、私はつい笑ってしまった。

 でも、礼一ならきっと、こういう部屋好きだろうなって思って、礼一の姿を探す。だけど、そんなには広くない部屋の中、礼一の姿を見つけることはできなかった。

 先に部屋を出てしまったのかもしれないと、募る不安を抑えつけて、萌香と一緒に部屋を出てみたけれど、そこにも礼一の姿は無かった。


「ねぇ、萌香」

「なに?」

「礼一、いなくない?」


 みんなに聞こえないように、小さな声で萌香にだけ聞いてみたのだけど。


「レイイチ? ……って?」


 予想通りというかなんというか。

 萌香はキョトンとして私を見た。


 もしかしてこの建物は、部屋に入る度に1人が消えてしまうのかもしれない。しかも、姿が消えるだけじゃなくて、みんなの記憶の中からも。

 でも、本当にそんな事があるのだろうか。

 これはもしかして、みんなが私を驚かそうとして計画したことじゃないのかな。


 色々考えて、私は萌香に聞いてみた。


「ねぇ萌香」

「ん?」

「私たちさ、何人でここに来たんだっけ?」

「どしたの、若菜ちゃん」

「どうもしないけど、何人だったっけ?」

「えーと、7人だよ?」

「え……」

「あれっ? 1人足りないねぇ? どこ行っちゃったんだろ?」


 萌香はキョロキョロと周りを見回している。


「先に戻ったのかな。でも私は若菜ちゃんと一緒にいるから心配しないでね」


 私を安心させるように若菜がニッコリと笑う。

 だけど、私の不安はムクムクと大きく育っていた。


 私たちは8人でここに来たのだ。

 そして、今姿が消えてしまっているのは2人。

 それなのに、萌香は7人でここに来たと言った。

 これはどういうことなのだろうか……



「若菜、萌香! ほら、次入るぞ!」


 見れば、翔が次の部屋のドアの前に立って、こちらを見ている。

 萌香と話している間に、みんなも書斎から出て来て、次の部屋の前へと移っていた。

 私たちも慌てて、次の部屋の前へと移動した。



 次に入ったのは、2階の一番手前の部屋。階段のすぐ近くの部屋だ。

 まず翔が入って、次に蘭、奈々が入り、私は萌香と一緒に手を繋いで入って、その後から樹が入って来た。

 そこは、寝室のようで、大きなベッドが2つ置かれていた。


「うわーっ! バフッて飛び跳ねたいっ!」

「やめときなさい、奈々。埃まみれになるわよ」


 蘭が止めたにも関わらず、奈々は思い切りベッドの上に飛び乗った。案の定、部屋の中に埃が舞い上がる。


「わっ! ごほっ、ごほっ……」


 萌香が私から手を離して、ゴホゴホと咳き込んでいる。もしかして萌香、ダストアレルギーなのかな。

 そうじゃなくても、この埃まみれはちょっとツラいけど。


「萌香、一旦外出よう?」


 そう声を掛けて、私は部屋の外に出た。

 だけど、萌香はいつまで経っても部屋から出てこない。

 埃がツラいのなら、早く部屋から出てくればいいのに。


「萌香~? 大丈夫?」


 部屋に戻って萌香に声を掛ける。

 だけど。


「若菜、あんた誰に話しかけてるの?」


 蘭が不思議そうな顔で私を見る。


「モエカって、誰?」


 奈々も、ベッドの上にチョコンと座ったまま、不思議そうな顔で私を見ていた。

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