第3話

『あそぼ』


 入ったとたんにそんな声が聞こえた気がした。

 だけど、みんなには聞こえていないようで、それぞれ思い思いに色々な場所を見て回っている。

 気のせいかな、と思ってふと見た先、玄関から入って正面に置かれた棚の上には、着物を着た可愛い日本人形が置かれていた。


「ドアがある部屋が7つあるな」


 建物は2階建てで、1階に4部屋、2階に3部屋あった。

 私は萌香と樹と一緒に3人でずっと1階のリビングにいたのだけど、他の5人は色々と見て回っていたらしい。

 この建物には電気が通っていないようで、スイッチを押しても電気は付かなかった。

 今はまだ外が明るいから窓から入る光で中はよく見えるけど、日が暮れてしまったらきっと真っ暗になってしまう。


「ねぇ、もう帰らない?」


 不安になってそう言ってみたのだけど、探検組の5人は首を横に振った。特に大介は大きく首を横にブンブンと振った。


「帰るのは、全部の部屋を見てからだ!」

「また明日来ればいいじゃない」

「何言ってんだよ、明日はもう帰るんだぞ? そんな時間なんかあるわけ無いだろ!」


 大介と私の意見は平行線のままだ。


「とりあえず、母さんに連絡しておくか」


 そういって翔がスマホで電話をかけようとしたけれど


「あれっ? ……あっ、圏外だ」


 結局電話は繋がらず。


「じゃあ、さっさと見てさっさと帰るぞ」


 そう言って、礼一は早速2階へと上っていく。


「ちょっと待ちなさいよ、礼一!」

「私も行くーっ!」


 蘭と奈々が礼一に続く。


「ほらっ、お前らも早く来いっ!」


 大介が、萌香と繋いでない方の私の手を取って階段を上り始める。


「えっ⁉ ちょっと、待って大介!」


 大介に引っ張られるようにして、私と萌香も階段を上る。


「部屋に入る順番、どうしようかな」

「適当でいいんじゃない? あ、俺は一番後ろがいいな」


 私と萌香の後ろから、翔と樹も階段を上がって来た。



 階段を上って一番奥の部屋から入る事にしたらしく、ドアの前では今や遅しと大介が私たちを待っていた。


「さっ、入るぞ!」


 意気揚々と、大介はドアを開けて中へと入って行った。

 続いて礼一、蘭、奈々が入り、私は萌香と一緒に手を繋いで入って、その後から翔と樹が入って来た。

 そこは、小さな子供の部屋のようで、おもちゃがいくつか床の上に転がっていた。


「ちっちゃい子でもいたのかな」

「ねー。あ、これ可愛い!」

「勝手にモノを動かすな」


 奈々が床から拾い上げたおもちゃを礼一が取り上げて、元の場所に戻す。


「じゃ、次の部屋見てみるか」


 翔の言葉にみんなでゾロゾロと部屋を出る。

 その時、私はやけに静かな気がした。聞こえるべき声が聞こえないというか。

 そして気づいた。大介の姿が見えないことに。


「ねぇ、大介は?」


 私は近くにいた礼一に聞いた。

 すると―


「ダイスケ……って、誰?」


 礼一は私を見て、不思議そうに首を傾げる。

 私はゾっとした。礼一はそんな冗談を言うタイプではない。


「ねぇ、大介はっ⁉」


 みんなの顔を見ながら、私はみんなにも聞いた。だけど、反応は礼一の反応と同じ。


「若菜ちゃん、どうしたの? ダイスケって、誰?」


 手を繋いだままの萌香が、心配そうな顔で私の顔を覗き込んでくる。


「やだ、みんな……私のこと、揶揄ってるの?」

「どうしたんだよ、若菜。さっきから何言ってるんだ?」

「若菜、あんたもしかして霊感強いとか?」

「わーちゃん、大丈夫? 少し休もうか?」


 樹も蘭も奈々も、心配そうに私を見る。とても私を揶揄っているようには見えない。

 何がどうなっているのか全然分からないけど、何か良くない事が起こっている事だけは分かった。


「ねぇ、もう帰らない?」


 心細くなって私が言うと、翔が言った。


「いいけど、若菜が言ったんだぞ? 『帰るのは、全部の部屋を見てからだ!』って」

「えっ……」


 それを言ったのは、大介だよ!


 そう言いたかったけれど、私は言葉を飲み込んだ。

 今大介の名前を出したら、余計みんなが混乱するような気がする。

 それに、このまま大介の事を放り出して帰る訳にはいかない。


「そうだね。じゃ、早く他の部屋も見ちゃおう」

「若菜ちゃん……」


 萌香が心配そうに私の手をぎゅっと握りしめる。


「大丈夫だよ、萌香」


 私も萌香の手をぎゅっと握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る