第2話

 みんなに追いつくと、みんなは既に川から上がっていて、私の事を待っていてくれた。


「ひどいよみんな! 置いて行かないでよ!」

「ごめんな若菜。俺達も気づかない内に移動しちゃってたんだよ」


 翔はそう言って私に謝ってくれた。みんなも一緒に謝ってくれた。だけど大介だけは


「ていうか、若菜寝てたんだろ? 俺達が移動してるの、気づかなかったんだから」


 なんて言って、私の事をニヤニヤしながら見ている。


「寝てないもんっ!」

「大介残念だったねぇ? 若菜の可愛い寝顔、見そびれちゃって」


 私の肩を抱きながら、蘭がニヤッと笑って大介に言うと、大介は顔を赤くしながら怒鳴った。


「なっ! べっ、別に見たくねぇしっ!」

「わー! 大ちゃん顔真っ赤~!」

「うるせっ!」


 奈々にまで揶揄われ、大介の顔はますます真っ赤になる。


「まぁまぁまぁまぁ、とりあえずこうして無事合流できたんだから、いいんじゃない」


 樹が大介の肩を宥めるようにポンポンと叩く横で、礼一が小さく呟いた。


「あそこになんか見える」


 礼一が見ている方を見ると、確かに木の隙間から建物のようなものが見えた。

 そのとたん。

 私の胸のザワザワがより一層強まった気がした。


「どうしたの若菜ちゃん? 大丈夫?」


 無意識の内に胸を手で押さえていたのか、私の様子に気づいた萌香が私の側に来て、心配そうに私の顔を見る。


「ありがとう、萌香。大丈夫、なんでもない」

「そう? 何かあったらすぐ言ってね」

「うん」


 そんな私たちの会話をよそに、翔・大介・蘭・奈々はどうやらその建物に行く気満々らしい。


「若菜と萌香はどう? あそこ、行ってみる? ふたりが行かないなら、俺もここに残るけど」

「私は大丈夫だけど……」


 樹の言葉に、萌香が再び心配そうに私を見る。

 正直言うと、私はその建物には近づきたくなかった。だけどそれ以上に、みんなで一緒にいたいという思いの方が強かった。


「私も大丈夫だよ」

「そっか。じゃ、みんなで行こう」


 ニコッと笑うと、樹は翔たちに声を掛ける。


「それじゃ、出発進行!」


 威勢のいい声を上げた大介に、礼一が釘をさす。


「そばに行くだけだぞ。勝手に中に入ったらいけないんだからな」

「でもさ、空き家だったらいいんじゃない? 誰もいないんだし」


 蘭の言葉に、奈々もうんうんと頷く。


「とりあえず行ってみよう。後の事は行ってから決めよう」


 そう言って、翔は大介と並んで先頭に立った。

 その後に、礼一と蘭と奈々、その後ろに萌香と私、一番後ろに樹がいる。


 次第に、建物が近づいてきて大きく見えてくる。それは、大きな別荘のようだった。

 近づくたびに、私の胸のザワザワが大きくなってくる。

 すると突然、萌香が私の手を握った。


「こうしてれば大丈夫だよ、若菜ちゃん」


 萌香の手は小さいけど温かくて、なんだかホッとする。胸のザワザワも、少しおさまったような気がした。


「うん。ありがとう、萌香」


 私も萌香の手を握り返す。

 私はそのまま、萌香と手を繋いで歩いた。

 そうしてそのまま、私たちは建物の前へとたどり着いた。



 翔を先頭にして、礼一と大介が建物の周りをぐるりと回る。

 蘭・奈々・萌香・私と樹は、その場で3人を待った。私は萌香と手を繋いだままだ。


「誰もいないみたいだぞ?」

「それも、だいぶ長い間、な」

「入口のドアもカギ掛かってないし、ちょっと入って見ようぜ」


 戻って来た3人の言葉に、蘭と奈々は目を輝かせた。


「いいねぇ、なんか宝探しみたいで。面白いものあるかな~」

「探そう探そうっ!」


 萌香が私の手をぎゅっと握る。


「若菜ちゃん、大丈夫? 行ける?」

「……うん。大丈夫」

「まぁ、あんまり無理すんなよ。嫌だったら途中で抜ければいいし。俺もついてくから、心配すんな」

「うん、ありがとう。萌香、樹」


 萌香と樹の言葉が、私にはとても嬉しくて、そしてとても心強かった。


「そうだ。若菜、スマホ貸して」


 翔に言われて、ポケットからスマホを取り出し、翔に返す。


「なにしてんだよ、翔。早く入ろうぜ」


 早く中に入りたくてウズウズしている大介が、立ち止まってスマホ操作をしている翔を急かす。


「待てよ大介。写真撮りたいんだよ。この建物の前でみんなで、さ」

「あ、それいい! 夏の思い出、的な?」

「うんっ! 撮ろう撮ろう!」


 蘭も奈々もすごく乗り気だ。

 だけど翔はスマホの操作に手こずっているようだ。


「あれっ? おかしいな、ここを押せばカメラが起動するはずなのに……」

「ちょっと見せて」


 もしかして、水に濡らして壊してしまったのかもしれないと心配になった私は、萌香の手を解いて翔に近寄り、スマホを受け取る。

 私が触ると、スマホのカメラはすんなり起動した。


「あれっ? さっき全然開かなかったのに」

「そういう時、あるよね。じゃ、私が写真撮るね。みんな、並んで」


 みんなが建物の入口の前に並び、それぞれにポーズをとる。


「いくよ? はい、チーズ!」


 写真はバッチリ撮れた。翔に見せると、翔も満足そうに笑う。


「じゃ、次は俺が撮るから、若菜が入って」

「早く中入ろうぜっ!」


 翔と私が話している間に、大介はさっさと中へと入って行ってしまった。


「おい、大介、待てって! ったくあいつは……」


 大介を追いかけるようにして、礼一も慌てて中へと入っていく。


「ごめん。写真、あとでまた撮ろうな」

「うん」


 翔も中へと入っていく。続いて蘭と奈々も。


「若菜ちゃん」


 萌香が駆け寄ってきて、手を差し出してきた。私はその手に自分の手を絡めた。


「一緒にいようね、若菜ちゃん」

「うん!」

「俺もまぜてよ~!」


 樹の情けない声に萌香と一緒に笑い声を上げながら、私たちは3人で一緒に建物の中へと入った。

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