第63話

 朝食後、登山の為バスで移動することになった。僕は当たり前かのように越谷さんの隣に座っている。


 「越谷さん、今日は平気そう?」


 昨日、朝のジョギングで体調が悪そうだった越谷さんだが今日は顔を見る。顔色を伺ってみても悪く無さそうだ。


 「あ、あんまり見つめないで」


 「え」


 昨日の事があったからか、僕が越谷さんの顔を見ると顔を真っ赤にして目線をそらしている。急にそんな事を言われましてもと困惑するが可哀想なので外の景色を眺めるか。外を見ると風景がどんどん山になってきた。


 「もうすぐ着くから降りる前に周りのごみなんかは片づけておけよ」


 担任の上尾先生が生徒達に呼びかける。そこから数分後、バスが止まり生徒達が順々に降り始める。だが運動があまり得意では無い越谷さんは登山が憂鬱なのか嫌そうな顔で降りるのを嫌がっているようだ。


 「こ、越谷さん……」


 「はあ……、私が倒れたらアンタが運んでね」


 いや、いくら何でも人をおんぶしながら登山するのは無理です……。と言うと睨まれるのは確定的なので黙って頷く。越谷さんはヨシと言ってバスから降りる。まあ、いくら何でも冗談だって言う事は分かっているけど、何でこんなに尻に敷かれているんだ。


 その後、降りたら登山の際の注意事項を聞いたり、準備運動をした。


 「よーし、同じ班のメンバーで集まれ。先に準備出来たところから登っていけ。登山道になっているから迷わないと思うが先行する先生達の後ろにすぐ付いていくようにしろ」


 という訳で、生徒達は同じ班員達で集まる事になった。ぞろぞろと動きだす中、僕は越谷さんと本庄君、小川君を見つけて別の組の入間さんと川口さんを探す。探すのはちょっと骨が折れるかと思ったがすぐに見つけることが出来た。理由は川口さんの周りがザワザワと騒がしいからだ。


 「あ、いたいた~」


 その騒がしくなっている所から入間さんがお~いと手をぶんぶん振っている。いや、川口さんと入間さん本当に目立つな。


 「おし、これで全員集まったな」


 班員六名が無事揃った。全員集まったので、登山を始める為、山道の入り口に向かう。山道にはもう既に他の班の人達が登っているようで順番に上る為に縦に列になっていた。


 「今日の登山ってどれくらい大変なんだろ……」


 不安になっているのか越谷さんがポツリと呟く。まあ、本当に運動が苦手みたいだし仕方がない。


 「まあ、普段運動しないやつらも多いだろうしそんな大変じゃないはずだぞ。説明にもあったけど高尾山くらいの難易度じゃないか?」


 本庄君は登山の経験があるのか説明してくれる。高尾山は聞いたことがある。全国でも屈指の人気の観光スポットだったはずだ。登りやすさや景色がキレイなどで沢山の登山者がいるらしい。


 「いや、高尾山の難易度なんて知らないんだけど……」


 「小学生とかの子供も登るような初心者向けの山。まあ勿論登山なんだから油断はしちゃいけないんだが」


 確かにいくら登りやすい山といえど、もし登山道を外れてしまったなら遭難者も出てしまう事もある。山と川といえば事故が起こりやすい事も多いと聞くし今回、特に越谷さんの様子を伺いながら登った方が良いだろうなと考える。


 「うう、何でそんな危険な場所に行かなきゃいけないんだろう……」


 「だ、大丈夫だよ。僕達もいるんだし何かあっても助けるよ……」


 「ほ、ほんと、助けてね……」


 人を鼓舞するなど慣れていないが、不安そうにしている越谷さんに声をかける。それを聞いてちょっと落ち着いたのか笑ってくれた。そんな話をしていると列も大分前になってきていよいよ僕達の班が登る版になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る