第64話

 登山が始まってから何十分か経っただろうか。僕達は軽快に登っていた。約一名を覗いて……。


 「はあ、はあ、もう半分くらい登ったかな……」


 「いや、全然だな。まだ二割くらいじゃないか?」


 ゼエハアと息が乱れている越谷さんに本庄君がキッパリ答える。その言葉を聞いて分かりやすく絶望した顔を見せる越谷さん。最近、何かクールなイメージも無くなってきたように感じるな。僕はそのやり取りを見てクスっと笑う。その後、何かのセンサーを持っている越谷さんに笑っているのがバレて脳天チョップを食らいました。


 「でも春日部君って余裕そうだし何かスポーツやってたの?」


 「え、い、いやあ」


 その後、しばらく雑談をしながら登っていたら入間さんが僕に尋ねてきた。


 「前、体育でドッチボールやった時も運動神経良さそうだったよな」


 以前、ドッチボールで一緒のチームになった本庄君も気になったのか一緒になって聞いてくる。正直、あまり昔の話はしたくないがここで何も話さないのも不自然だろう。仕方がない。


 「中学の時にバレーをちょっとね……。もう辞めちゃったんだけど」


 「え~、そうなんだ。バレーカッコいいよね」


 入間さんが目を輝かせて僕を見つめてくる。スポーツ少女らしく、興味があるのだろう。困ったな。余りこの話をしたらボロが出たら嫌だし終わらせたいな。


 「へ~、なら私をおぶって山の頂上も余裕だね」


 「いや、それはマジで無理」


 越谷さんが話を切って話しかけてきた。僕の心情を察してくれたのだろうか。正直助かる……。その後は僕の話はせず雑談をしながら山を登る。この時の僕達は楽しく過ごしてあんな事が起きるなんて思わなかったんだ。


 

 しばらく山を登った時にそれは起こった。僕の目の前を歩いていた入間さんの動きに何処か違和感を覚えた。様子をしばらく見ていると何処か足を庇っているように感じた。僕は気になったので入間さんに声をかける。


 「ね、ねえ、入間さん」


 「う、うん?どうしたの?」


 「気のせいだったらいいんだけど、足痛いの?」


 「は、ハハ、ちょっとね。さっき何処かで捻っちゃったみたいで」


 入間さんの顔を見ると、すごい汗をかいているし顔がちょっと沈んでいるように見える。これは思ったよりまずいのかもしれない。


 「無理しない方がいいよ。皆に言ってちょっと休もう」


 「だ、だめ……。皆楽しそうにしているのに……」


 入間さんは悲痛な顔を浮かべて懇願してくる。そんな事を言ってる場合ではないと思ったが入間さんの頼みなんだ。どうすればいい……。僕達二人が少しずつ遅れていく。しかもタイミングが悪い事に今歩いている場所が傾斜が厳しくなって足を踏み外すと危ない。


 「でもこのままだと歩けないよ……、入間さんの足の事を伏せて何処かで一回休憩を入れよう」


 「……、分かったよ……」


 入間さんは納得しきれていないようだが仕方がない。それに足の事を言われたくないようだけどせめて本庄君辺りには言わないと僕だけではカバー出来ない。


 少し前を歩いている皆に声をかけようとした時だった。後ろで何かが倒れる音がした。パッと後ろを振り返ると少し後ろに歩いていたはずの入間さんが足をくじいてしまったのか倒れていた。しかもその場所が悪い。すぐ横が急斜面になっている。


 「入間さん!!」


 僕は急いで入間さんの元へ駆け寄ろうとする。しかしその瞬間、入間さんが急斜面から転がるように落ちてしまう。僕はその瞬間、何も考えずスライディングしながら落ち行く入間さんを追った。

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