第61話
新入生合宿の一日目を無事にやりきる事が出来た。僕達は自分の部屋に戻って後は消灯時間までの自由時間を過ごしている。その前の時間、小川君が女子風呂を覗きたいとか騒いでいた。高校生活を無駄にしたくないなら止めておいた方が良いと僕達は必死の説得をしていたというのは割愛させていただきます。
「暇だな~」
小川君が上段のベッドで寝そべりながら呟いている。あと少しで消灯時間なんだから少しくらい大人しくしていて欲しい。いかん、さっき必死に女子風呂行きたいとかごねているのを止めたからちょっとイラっとしてしまった。
「そうだ!!女子部屋に潜り込むしか……」
「連絡通路も寮の入り口も締まってるらしいから無理だよ」
小川君の提案を数秒で論破してしまう。小川君はそれを聞いてうううううとか悶えている。
「ははっ、春日部も小川の扱いに慣れてきたな!!」
本庄君がニッコニコで僕の顔を見る。いや、面白そうに笑ってないで本庄君も止めて欲しい。僕はハアとため息をつく。
「いや、真面目な話をするとだな。春日部と小川、仲良くやれるか心配ではあったんだよ」
確かに僕も本庄君とはよく話しているが、小川君は本庄君を通しての友達の友達といった感じでどうなるか不安ではあった。だが、今日一日一緒に行動したこともあって大分距離は縮まったような気がする。
「確かに春日部、全然話さないやつかと思ってたけど、思ったより変な奴だしな」
小川君は下段にいる僕を覗き込んでニッコリ笑う。それはいいんだけど小川君に変な奴って言われるの心外ではあるなと心の中で突っ込んだがまあ、良い雰囲気だし黙っておくか。
「まあ、そんなどうでもいい話は置いといて女子の話しようぜ!!」
おい、良い感じの雰囲気にしておいてまた女子の話するのかと呆れて、本庄君の顔を見たら彼もやはり呆れているのか口をあんぐり開けている。
「……、女子の話はいいんだが何話すんだ」
「お前らは彼女いるからいいだろうけど、俺の話をさせろ」
僕達は彼女じゃないと突っ込もうと思ったがやり取りが面倒なので黙って小川君の話を聞く。
「そうなると俺達の班の、越谷さんと入間さん抜いた川口さんの話しかあるまい」
まあ、小川君的には僕と越谷さん、本庄君と入間さんが彼氏彼女の関係だと思い込んでいるようなのでそういう話になるだろうなあという予測は出来た。
「今日で仲良くなれたのか?」
「ふふ、当たり前だろ。何と食器のやり取りをしてしまった」
「食器のやり取りって何?」
「俺が食べ終わった食器を流しに持って行こうとしたらな。川口さんが洗うからそれちょうだいって俺の食器を持っていってくれたんだ!!」
「で?」
「え、終わり」
「それだけかい!!」
僕達はあまりの中身の無い話に思わず突っ込んでしまった。え、それって事務的な話だしまともに会話すらしてないんだけどそれで距離縮まったって言えるのか?
「という訳で俺はこの合宿で川口さんとの仲良くなってあわよくば明日のキャンプファイヤーで告白する!!」
僕と本庄君は思わずブッーと噴き出す。え、気が早すぎないか!?
「いやいや、絶対上手くいかないぞ……」
「いや、流石の俺もそれくらいは分かるわ……、あわよくばって言ってるだろ……」
流石の小川君も現状どう思われているかは、自分で分かっているのだろう。だが、この合宿というイベントでお近づきになりたいという訳だ。
「だから、お前らにも協力して欲しいんだがどうだろう?」
「いや、俺は良いんだけどよ……」
本庄君は僕の顔を見て困った顔をしている。本庄君、一体どうしたんだろう……。
「本庄君?」
「いや……、分かってないならいいんだ。おい、小川!!俺が協力してやるから春日部はやらせないぞ」
「え、なんでだよ?」
「春日部と川口さんって同じ図書委員なんだ。もししくじったら春日部に迷惑になるだろ」
「あ~、なるほど、じゃあ本庄、明日よろしくな!!」
小川君はすっかり上機嫌になってひゃっほーいといって枕を宙に投げている。その様子を見ていた僕は何故か心の中でちくっとした痛みを感じていた。不整脈かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます