第46話
「……」
魔のプリクラを終え、意気消沈している。二人はニコニコ楽しそうだからいいけど。
「あ、もうこんな時間かあ」
川口さんがそういうので自分のスマホで時間を確かめると確かに夕方の五時といい時間になっている。僕達は帰ろうかとデパートの外まで三人で出る。
「じゃあ、ここで解散にする?」
「そうしますか」
「じゃあ、二人共ばいば~い!!」
そういって川口さんは早歩きで去っていった。何か用でもあるのだろうか。
「越谷さん、僕らも帰ろうか。電車逆の方向だろうから駅まで一緒に……」
「あ、あのさ……」
越谷さんが何か言いたそうなのでその続きの言葉を待つ。
「この後、時間あるならちょっと歩かない?」
「う、うん」
僕に何か用があるのだろうか。僕達は話ながら歩き出す。二人の距離は何時もより近い気がするがそれには言及せず黙っていた。しばらく歩いていると公園があったのでベンチを捜す事にした。少し歩くと木のベンチが空いていたので二人で並んで座った。
「……」
越谷さんは黙って下を向いている。あれ、何か話があったんじゃないのか……。僕は越谷さんの言葉を待つ。しかし待てども話始めない。
「あ~、それにしても新入生合宿どうなるだろうね~」
僕は世間話を始める。越谷さんが話し辛いならそういう雰囲気を作ってあげなきゃ。
「春日部、ごめんね」
「え?」
「気を遣ってくれたんでしょ?」
「へへ、それほどでも……」
「ただ、困ったらふざける癖やめな。結構滑ってるから」
ぐさっ、その言葉は僕のハートを深く抉る。我ながらつまらないなあと思って言ってるけど、何かふざけた事した方がいいかなと余計な事をしてしまうのだ。
「まあ、話したい事なんだけどさ……」
「うん」
「アンタ、川口さんの事、どう思ってるの?」
「え?」
川口さんの事をどう思っているか?そんな事を聞いてどうするというのだろうか。そういえば、川口さんからも越谷さんの事をどう思っているか聞かれた。何故二人は僕にこんな事を聞いてくるのだろう。
「何でって顔してる」
「……うん」
「……、それはまだ言いたくない……」
「ええ……」
「普通、気付くと思うんだけど……」
越谷さんは小声で何かを言った後、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。何でそんな事を聞いたのかは分からないがそれは言いたくないとの事なので二人して黙る。僕達の間には沈黙が流れて遠くのカラスの鳴き声だけが響いていた。
「そういえばさ……」
「ん?」
何分くらい経っただろう。越谷さんから話始める。
「こうして二人きりになるっていうのも減ったよね」
「え!!」
「いや、何でそういう時だけ照れるのよ……」
確かに今、公園のベンチで男女が二人きりで座っているというのは周りから見ればカップルに見えたりするのだろうか?いや、片や美人のギャル風の女の子、隣には冴えない陰キャ。俯瞰で考えればカップルには見えないだろう。
「何で、悲しそうな顔するの?」
「え、い、いや」
僕が考えていた事が分かったのだろうか。越谷さんは心配そうな顔で僕を見つめていた。
「春日部、昔に何かあったんだよね。それで?」
「それもあるのかも」
「それってまだ私には言えない?」
僕はビックリして越谷さんを見る。真剣な顔で僕を見つめていた。
「……ごめん。あまりいい話じゃないし、誰かに言うつもりは……」
「いや、こっちこそごめん」
またしても二人共黙ってしまった。すると僕のスマホがブブっとバイブする。越谷さんに断りを入れてスマホを見ると川口さんからもう帰った?とメッセージが来ていた。僕は今二人で話しているとメッセージで返すと、今度は越谷さんのスマホから着信音がする。電話だろうか。
「はい、あ……、川口さん、はい、今そうですね」
どうやら、川口さんからの電話らしいが、越谷さんが何故か敬語で話している。何で?
「いえ、抜け駆けなどではなく……、はい……」
よく分からないが川口さんから怒られているのだろうか。時々、越谷さんが頭を下げて謝っている。いや、目の前に川口さんいないんだから頭下げなくていいのではと思った。
しばらくすると話し終えたようで越谷さんはスマホをしまう。その瞬間、越谷さんの拳で僕のこめかみをグリグリと万力のように絞められてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます