第47話

 三人で出掛けた数週間後、新入生合宿当日になった。トランクケースに荷物を積めるだけ積めて準備をする。


 「隆、まだいたの」


 勝手の僕の部屋のドアを開けて開口一番に文句を言ってきたのは僕の姉、春日部美代だった。もうすぐ、出るんだから文句を言わないで欲しい。


 「もうすぐ出るってば」


 「いや、時間大丈夫なの?」


 スマホを確認するがまだ時間には余裕がある。無駄に焦らせてからかっているのだろう。そうはいかないと荷物の最終チェックを行う。


 「そういえば、彼女出来るといいね」


 「はあ?」


 そういって姉ちゃんを見ると、ニヤニヤと笑っている。というか何時まで僕をからかうつもりなんだろう。


 「知らないの?キャンプファイヤーの噂」


 「……噂って?」


 合宿の二日目の夜にキャンプファイヤーをするっていうのはしおりに書いてあったので知っていたが、噂とは何の事か分からない為質問する。


 「よくあるやつよ。キャンプファイヤー中に告白するとカップルが成立しやすいって」


 「ああ……」


 そういうのって何か迷信というか、都市伝説みたいなレベルのやつではないのだろうか。だが、多感な学生の事だ。そういう噂に後押しされて告白する生徒が出るっていうのもあるのだろうし、あまりバカに出来ないのかもしれない。


 「まあ、僕には関係ないし……」


 「モテなさそうだしね」


 余計なお世話だと思い、あまり家にいると何時までも嫌味を聞かされそうだというので早めに家を出よう。僕は荷物を持って動き出した。


 「お土産よろしくね」


 「新入生合宿でお土産とか買う暇あるの?」


 「いや、知らない」


 同じ学校なんだから自分だって二年前に行ってるだろと思ったがこれ以上話していたら疲れそうなのでさっさと家を出た。外に出るとかなりの晴天で暑くなりそうだ。僕はトランクケースを引きずって学校へ向かう。



 学校まで着くと校門の前にバスが何台か止まっていた。僕はバスを横目に集合場所の校庭に向かう。校庭には生徒がかなり集まっていた。僕は急いでAクラスが何処に集まっているか確認しようと探す。


 「おーい、春日部!!」


 本庄君が僕を呼んで腕をぶんぶん振っている。僕は急いで彼の元へ早歩きで向かった。


 「おはよう、本庄君」


 「おはよう、とうとうだな」


 本庄君は何時もよりテンションが高いようだ。まあイベント事なので当然だろう。隣には小川君や本庄君の友達がいる為、多少居心地が悪い。僕は隅で空気になるよう徹してやり過ごす。


 しばらく黙って待っていると明るい髪色の女の子が校門から歩いてくるのが見えた。見覚えのあるシルエットだなと思っていると予想通り、越谷さんが到着したみたいだ。僕は手を振って彼女を呼ぶ。


 「は~、今日暑くない?」


 越谷さんは顔をパタパタと手で扇いでいる。確かに今日暑いねと語っていると担任の上尾先生が生徒達の方へ歩いてきた。


 「よし、準備できている生徒から荷物をバスに入れて席に着け」


 上尾先生の号令に従って順番にバスに荷物を詰め込む。さて席はどうするかと悩んでいるとクラスの中心人物が後ろに乗る為にさっさとバスに乗り込んでいく。ああ、先生って運転席の近くに座るから、極力後ろに座るのかと思った。そんな事を考えていると本庄君が他の生徒に連れられて乗り込んでしまった。あれ、僕の隣って誰に座るんだ?と頭を抱えていると肩に手をポンと置かれた。


 「うわっ」


 「いや、驚き過ぎじゃない?」


 後ろに立っていたのはどうやら越谷さんだったようだ。まあ、僕に話しかける生徒なんて限られてるしね。


 「アンタ、当然私の隣だから」


 「はいい?」


 どうやら、僕のバスの隣の席は最初から決まっていたらしい。

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