第43話

 服の買い物を終えた僕達は三人で昼食を食べにデパート内の定食屋に来た。様々な定食があるため、個人個人好きなメニューが選べるし良いのではと僕が提案した。さて、僕は何食べようかとメニュー表を見て悩む。


 「私は麻婆豆腐定食にしようかな」


 越谷さんがまずメニューを決める。流石、決断が速い。僕もあまり待たせる訳にはいかないし早く決めなきゃ。


 「そうしたら刺身定食にするね」


 「え、えーと、じゃあ、味噌カツ定食で。すいませ~ん」


 店員さんを呼んで三人分の注文を伝える。店員さんは手際よくハンディに打ち込んで厨房まで戻っていく。


 「新入生合宿楽しみだね~」


 料理が来るまでの待ち時間、会話の口火を切ったのは川口さんだった。


 「そうだね。でも集団行動に登山で夜にレクリエーションだから結構ハードな内容みたいだけど」


 「アンタはまたすぐ、ネガティブな事言う……。まあでも私も集団で行動するの苦手だけど」


 「いや、二人共、もっと楽しみにしようよ……」


 川口さんはハアとため息をついて呆れている。すいません、僕達二人コミュ障なんです……。


 「まあ、でも僕達みんな仲良い面子だから助かったよ」


 「それはそう、春日部達居なかったらサボってるかも」


 いや、流石に宿泊行事をサボるのはいくらなんでも不味いでしょ……。


 「そんな事言ったら、私話したことあるの、春日部君くらいだよ。入間さんは同じクラスだけど別のグループだし」


 確かに、川口さんとしてみれば僕以外話す事がない人達だ。何でそれでも僕達のグループに入ったんだろう?


 「そうしたら、仲が良い連中で班決めした方が良かったんじゃない?」


 越谷さんがニヤニヤと意地悪を言う。勿論本気で言っている訳じゃないと思うけどからかっているのだろう。


 「フフ、そんな意地悪言っていいんだ?」


 「っ、やっぱりなんでもないです……」


 さっきとは反対に川口さんが笑って越谷さんを煽る。何だろう。越谷さんの弱みでも握っているのだろうか。もしかしたら二人で話した時の事と何か関係があるのだろうか。そんな話をしていたら僕達の料理がドンドン運ばれてくる。


 「いただきます」


 三人がそれぞれの料理を食べようとする。


 「う~ん、私ちょっと量多いかな」


 川口さんが運ばれてきた料理を見て語る。川口さんの刺身定食を見ると確かにご飯も刺身の量も男性がお腹いっぱいになりそうな程の量くらいはある気がする。


 「そうしたら、僕食べるよ。ご飯食べられない分乗せて」


 川口さんが自分の分のご飯を僕の茶碗に装う。これなら問題ないだろうと思ったがお刺身はどうするか。


 「刺身の分のお皿貰おうか」


 「そんな事しなくていいよ」


 川口さんは自分の分の刺身を箸で掴んで僕の口元まで持ってきた。


 「こうすればいいでしょ。ほら口開けて」


 「へ?」


 「ハア?」


 僕は困惑の声をあげて、越谷さんはガタっと立ち上がる程驚嘆した。え、川口さん何を言ってるんだ。それじゃまるであーんみたいじゃないか。


 「ほら、照れてないで、早く口開けて」


 「はい……」


 僕は諦めて口を開けて刺身を食べる。うん、緊張しすぎて刺身の味がしません!!そして越谷さんは例のフクロウのような目で僕を見つめている。怖いので勘弁してください。そうしたら越谷さんはモジモジし始める。


 「そ、そうしたら私もそれやる!!」


 「いや、越谷さん、麻婆豆腐だからお皿貰わないとじゃない?」


 越谷さんは次の瞬間頭を抱えてしまった。越谷さんも量多かったのかな。ちなみに頭を抱えてる越谷さんとは対照的に川口さんはニコニコしながらご飯を食べていた。

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