第42話

 「僕が女子の服を選ぶとか本気?」


 この僕に選ばせるなど正気の沙汰ではないと思うのだが、この二人は大丈夫なのかと本気で問いかける。


 「別に私達が選んだのを見てもらうだけで良いよ」


 「そうそう。最終的には自分で選ぶんだから気軽に見ててくれればいいよ」


 まあ、そういうことなら協力した方が良いよね。僕の服も見てもらったことだし。そうして婦人服売り場に来たが、男性が僕含めても数人しかいないのですごい居心地が悪い。いても彼女の買い物に付き合ってる彼氏って感じだし。


 「ど、どないしましょ……」


 「私達の連れなんだから堂々としてなよ。キョロキョロしてる方が不審がられるよ」


 それはそうだ。婦人服売り場で周りを見てる男性だなんて不審者以外の何物でもない。仕方がない、僕が持つ数少ない特技の脳内で宇宙にいる猫を思い浮かべる事で感情を無にするしかない。


 「また、アンタ、アホみたいな顔してるよ」


 「ひょ!?」


 急に話しかけられたと思ったら、目の前に越谷さんがいた。その手には黒の可愛らしいワンピースがあった。


 「あんまり、可愛い系の服似合わないと思うけどさ、アンタこういうの好き?」


 え、これ、何て答えればいいんだ。正直、越谷さんのビジュアルなら何着ても絵になるでしょうと言いたいが、それを言ったら聞かれた意味がないように思うし、何て言った方がいいんだろうか。


 「そんなに悩まなくていいよ。思った事言ってくれれば」


 「な、なるほど……、越谷さんなら何着ても可愛いと思うよ!!」


 「っ」


 越谷さんは顔を赤くして頭にチョップしてきた。ええ、何か怒らせるようなこと言いましたっけ!?


 「そ、そうじゃなくて、この服が私に合ってるか聞いてるの」


 「あ、そういう。え~と、今日のクールな感じと違っていいと思うよ。普段の越谷さんのイメージと違って」


 「ふんふん。で、普段の私ってどんなイメージなの?」


 さっきから越谷さんは難問ばかり出してきている。正直、学校のテストより遥かに難しいんですけど。う~んと悩んで答える。


 「ぱっと見はクールな感じだけど、ちょいちょい可愛い一面があああああ」


 僕が言い切る前に手をつねられている。さっきから怒らせるようなこと言った覚えがないのに、なんなの~。


 「アンタ、さっきから私をからかってるの?」


 「そ、そんな事ないよ。本気でそう思ってるから……、怒らせるようなこと言っちゃったかな?」


 「べ、別に。怒ってないから……」


 顔を真っ赤にしてる越谷さんはそっぽを向いてしまった。怒ってないのにチョップしたり手をつねったりしないと思うんですけど。じゃあ、これ買って来ると言ってカウンターまで行ってしまった。僕はふうとため息をつく。そうしたら後ろから肩を叩かれる。後ろを振り向くと、川口さんが立っていた。


 「一部始終見てたけど、二人でイチャイチャしすぎじゃない?」


 「イチャイチャしてませんけど!?」


 川口さんはジトっと睨んでいる。僕がいると何か二人の機嫌が悪くなる気がするんだけど僕居ていいのかな。川口さんは手に白のパーカーを持っている。


 「まあ、いいや。この服どう?」


 「いや、川口さんが似合わない服無いでしょうに」


 学園で一番の美少女と言われる川口さんは本当にどんな服でも着こなしてしまう事に想像に難くない。


 「それ、越谷さんにも言ったでしょ。私に似合ってるかどうか」


 「え、でもそういうカジュアルな服なら川口さんがカッコいい感じになって良いかもね」


 「なるほど……、で何で人にはそういう事言えるのに、自分ではブラックドラゴンのTシャツ買っちゃうの?」


 まあ、陰キャは服買う時、そんなに真剣に服選びしないからと答えたら川口さんに心底呆れられた。

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