第41話

 「え?い、いや」


 川口さんから小声で耳打ちされて驚いてしまった。ど、どういう意味だろう。僕は意味が分からなくて固まってしまう。


 「いや、冗談なんだからそんな驚かないで」


 「は、はは」


 な、なんだ、冗談か。急に言われてビックリしてしまった。そして二人で話しているのを前を歩いている越谷さんがこちら、というか僕を睨んでいる。やば、越谷さんほっといてしまった。


 「こ、越谷さん、ごめん」


 「……、別に謝る事ないでしょ」


 こうして前二人を歩かせて、僕は気配を消して後ろからついていこうと思い、二人が並んで歩くのを確認したら少し後ろを歩こうとする。普段ならこれで何も問題ないと考えての行動であった。


 「春日部、何で後ろ歩いてんの?」


 すぐに越谷さんに後ろを振り向いて気付かれる。おかしいな、陰キャの僕なら複数人で行動するとき、これで済んでいるのだが何故か越谷さんには通じないみたいだ。


 「いえ、いつもならこれで上手くいってるんです……」


 「春日部君、何言ってるの?」


 「あんた、時々意味分からない事言うよね……」


 まあ、陰キャにしか伝わらないスキルだよね。二人仲良さそうにしてたら後ろで一人でいた方が良いって考える時ありますよね。


 「まあ、真面目な事言うと三人並んで歩くと邪魔かなって思ってさ」


 「……、まあそれは一理あるかもしれないけど。話には入ってきなさい」


 「うす……」


 ついでにその変な返事も止めなさいと注意されながらも二人のすぐ後ろを歩いていく。何か学園内で人気の女子二人と一緒に買い物に行くなんて未だに信じられないなあと二人の後ろ姿を見ながら考える。僕は前世で何か徳を積んだに違いない。


 「で、春日部、話聞いてた?」


 「はいぃ?」


 ずっと考え事をしていたからか、全く話を聞いてなかった。やばい、話を聞いてなかったことが越谷さんにバレたら怒られるに違いない。


 「……その反応聞いてなかったでしょ」


 「そ、そんな事は」


 「ふ~ん、じゃあ、何の話をしてたか言いなさい」


 「旅行に行った時、ドラゴンと剣のキーホルダーつい買っちゃうよねって話ですかね」


 「それ当てる気ないでしょ……、てかそのキーホルダーを未だに買うのはアンタだけ」


 え、マジ?あれどこのお土産ショップに行っても売ってるから大人気商品だと思った。いや、どこでも買えたらお土産感ないな……。


 「ハア、後で二人にジュース奢りね」


 「ええ……」


 「フフッ、女子二人に奢れるなんて男子冥利につきるでしょ」


 「ソ、ソッスネ」


 とそんなくだらない話をしながら歩くとデパートに着いた。十階以上はあるだろうか。この辺りではかなり大きめのデパートで基本的な物は買えそうだ。


 「まずは服買いに行きましょうか」


 「承知いたしました」


 「おっけー」


 まずは紳士服と婦人服両方打っている服屋に来た。比較的シンプルなデザインでリーズナブルな値段で買えるので僕もたまに来る。だがセンスには自信ないのでお二人の意見を伺いながら買った方がいいだろう。


 「まあ、まずは春日部の服見ようか」


 「お二人共、宜しくお願い致します」


 「ま、まかせて~」


 というわけで二人に確認しながら合宿できる用のシャツを何枚かかごに入れた。


 「じゃあ、今度は私達の服見ようか」


 「そうだね」


 「あっ、じゃあ、僕外で待ってるよ」


 僕がそう言うと、二人は信じられないものを見るような目で僕を見つめてきた。また、僕何かやっちゃいました?


 「アンタの服選んであげたんだから私達の服も見なさい」


 「そーそー、春日部君が可愛いと思った服選んでよ」


 え、この僕が女性の服を見るんですか?割とマジで止めておいた方が良いのではないでしょうか?

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