第39話

 騒乱の班決めを終え、その後の授業も行われた後、昼休みになった。


 「春日部~、昼食べるよ~」


 越谷さんがいつものように机をくっつけてくる。もうすっかり慣れたけど、これ女子と一緒にご飯食べてるんだよな。周囲の男子が睨みをきかせてきてるし。僕は微妙に居心地が悪い中、鞄から弁当を取り出そうとした時だった。


 クラスの扉の辺りがザワザワとしだす。この流れ前にもあったなと感じ、見てみると例のごとく、川口さんが立っていた。川口さんが僕の姿に気が付いたのか。こちらへ向かって歩いてくる。


 「春日部君、ここでお昼食べてるの?」


 「う、うん。川口さんAクラスに何か用があって?」


 川口さんが普段来ないAクラスに来た理由が気になって尋ねてみる。すると川口さんは顔を赤くしている。どうしたんだろう。


 「え、えと、春日部君と一緒にお昼食べたいと思って……」


 「くえ?」


 予想外過ぎる回答に僕は変な鳴き声をあげてしまった。な、何で僕と一緒にお昼を?よく見ると川口さんは自分の弁当を持ってきているようだ。


 「はあ……、前の席の子、昼休み中戻って来ないからそこ座れば」


 僕の間抜けな返事を見かねた越谷さんが席に座るように促す。それを聞いた川口さんは笑顔になって席をくっ付け始めた。え、僕これから越谷さんと川口さんとご飯食べるの?僕は遠くで別のグループでご飯を食べている本庄君を見る。すると本庄君はこちらにウィンクしてきた。僕はこの時、初めて本庄君にキレそうになった。


 「春日部、何処見てんの。ご飯食べるよ」


 「へい」


 僕が本庄君を見て助けを求めていたのがバレたのか、早く用意しろと促される。僕は諦めて弁当を広げながら周囲を見渡す。当然この時、クラス内はザワザワ騒がしくなっている。


 「ごめん、やっぱり私が来ると落ち着かないよね」


 「そ、そんな事ないよ」


 「そこらへんの奴なんて気にしなくていいでしょ」


 川口さんが謝ってくるので、慌ててフォローをする。そうだ。周りの人達なんて関係ないんだからさっさと昼食を食べよう。


 「おっ、今日のおかずは唐揚げか」


 「あ、春日部君の美味しそう」


 僕が弁当を広げると、川口さんが覗き込んでくる。うおっ、凄い見て来るな。


 「春日部のママ、料理上手いよね」


 「ふふっ」


 急に川口さんが笑う。何が可笑しいんだろう。


 「ごめん、ごめん、越谷さんがママって言うの可愛いから」


 「っ……」


 ああ、僕は会話している時にたまに親の話題が出るとママって呼んでいるの知ってるから何とも思わなかったけど確かにイメージと違うのかな。


 「……いいから食べるよ」


 越谷さんはレジ袋からサラダとおにぎりを取り出した。女子って食べる量少ないよなと思いながら自分の弁当を食べる。


 「そういえば、新入生合宿って割と私服で過ごすんだよね」


 「そうらしいね。何、春日部私服ないの?」


 「う~ん、普通の服は殆どないんだよね。家で着ている服、姉ちゃんにクソダサいから買ってこいって言われた」


 「どんな服なの?」


 「真ん中にブラックドラゴンがいてよく分からない言語が書いてあるTシャツ」


 「小学生じゃん……」


 越谷さんに鋭すぎるツッコミを入れられて心にダメージが入る。確かに昔大きいサイズ買ったから今でも着られてるけど流石に外では着れないって分かってるから!!


 「そ、そしたら今度の休み一緒に服買いに行く?私も合宿前に揃えたいものあるし……」


 「えっ、よ、よろしくお願いします……」


 まあ、正直、僕のセンスで服を買うより越谷さんチェックを通した方が良いだろう事は僕にも分かる。すると、川口さんが何か言いたそうにしている。


 「川口さんどうしたの?」


 「あ、あのさ、その買い物私も行っていい?」


 その時、僕は箸で掴んでいた唐揚げを落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る