第38話

 「私も同じ班に入れてくれない?」


 川口さんがそう言った瞬間、周囲の生徒達が騒然となった。当然だ。学園のマドンナと呼ばれる程人気のある川口さんが僕の用なモブ生徒に班に入れてと頼み込んでいるのだ。辺りは何故?といった疑問が浮かび、僕は好奇の目にさらされている。正直、僕は気ごころが知れている川口さんにも入ってもらいたいと思ったが、どうしようと本庄君の方を見るとコクンと頷いた。次いでチラッと越谷さんを見た時、僕と目が合って何かを言いたそうな儚げな目をしていた。僕は越谷さんの気持ちが分からなかったが、川口さんと一緒の班になりたいという自分の気持ちを確かめ返事をする。


 「こちらこそ、よろしくね」


 「っ、ありがとう!!」


 川口さんはパアッと笑顔になった。その瞬間、辺りの生徒達は更にザワザワし始める。


 「影の薄そうなアイツは誰だ?」


 「川口さん何であの人の班に入りたいんだろう」


 「あいつ、確か後ろにいるギャルの彼氏じゃなかった?」


 耳に入った話だけでも散々な言われようだ。それはそうだ。僕のような影の薄い生徒と学園屈指の人気を誇る川口さんが相手では知り合いにしても吊り合いが取れていない。


 「あなた達、勝手な事ばかり言わないでもらえる?」


 ザワザワしていた周囲を相手に川口さんが叫ぶ。その声は怒気をはらんでいて周りの生徒達はシーンと静かになった。


 「私がどこの班に入ろうが、私の勝手でしょ。今ごちゃごちゃ言ってた連中、二度と私に話しかけないで」


 それは今までの川口さんのクールなイメージを破壊しかけるほどの強い言葉だった。それを聞いた生徒達はバツが悪そうに下を向いてしまった。


 「ま、まあ、俺達はこれで六人揃った訳だし、早く先生の所に言いに行こう」


 「そ、そうだね。早く行こう!!」


 辺りがお通夜ムードになった空間で声をあげたのは本庄君だった。こういう時はやはり頼りになる。僕も相槌を打って僕達の班の人達を連れて上尾先生の元へ行く。


 「お前ら、何でこんな騒ぎになってんだ」


 上尾先生に話しかけた途端、こんな事を言われてしまう。


 「い、いや~、なんでですかね」


 僕はとぼける。理由は分かりきっているが、ここで川口さんの名前を出すのは可哀そうだ。というか言わないでもあの騒動聞いてたらバレてるだろうし。


 「ああ、まあいいけど、班長はこの後決めておけよ」


 「班長ですか?」


 「ああ、まあこの班をまとめたり、リーダーとして結果報告したりする役目だな」


 まあ、この班の中だったら班長は間違いなく本庄君だろう。彼ほどリーダーシップという言葉を体現した人物はそういない。僕は本庄君を見てサムズアップをする。


 「何だ、春日部、お前班長やりたいのか」


 「違うよ!?今のサムズアップは本庄君がやるよねって意味で」


 「え、でも勉強会の時のように皆を引っ張っていけばいいじゃん」


 「あ、あれは勉強だったからで、今回のはどう考えても本庄君が適任でしょ」


 他の人達も本庄君がリーダーである事は疑いようがない為、満場一致で本庄君が班長となった。


 「げ、面倒そうだな。そしたら春日部、副班長として助けてくれよ」


 「それは勿論。本庄君だけに負担かけさせないよ。副班長なんてあるのか知らないけど」


 他の生徒を見るとまだ誰が組むなどの話し合いをしてザワザワいる。僕越谷さん達と知り合ってなかったら絶対あぶれてたなと恐怖する。好きな人同士で班作って~は悪魔の所業だぞ。


 「じゃあ、まだ時間あるみたいだし自己紹介でもするか?」


 本庄君は僕達に提案をする。僕はみんな知り合いだが初対面の人もいる為、軽く紹介するのは良い案だと思った。


 「じゃあ、言い出しっぺの俺からだな。本庄晃。帰宅部のエースだ。趣味はスポーツゲーム。よろしくな」


 「私は入間遥香。バスケ部です!!趣味は色々!!よろしく~」


 入間さんバスケ部なのか。活発な感じだし確かに合ってるなと感じる。ていうか本庄君、運動神経良いんだから運動部入ればいいのに。以前クラスで運動部に誘われるところ見たし。


 「小川幹人だ。サッカー部所属でフォワードやってる。趣味はスポーツなら割と何でも」


 「越谷瑠衣。帰宅部」


 小川君の後に越谷さんが自己紹介する。というかまたコミュ障発動している……。僕や入間さんと話す時は普通なのに。


 「え~、春日部隆です。図書委員です。よろしく……」


 僕の挨拶が終わると川口さんの挨拶の番になる。


 「え、えと、川口亜紀です。春日部君と同じ図書委員です……」


 同じ図書委員と聞くと本庄君があ~、なるほどと呟いた。僕とどんな接点があるのか気になっていたのだろう。こうして新入生合宿へと向けて準備を進めていくのであった。

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