第35話
「越谷さんの事を……」
川口さんから僕が越谷さんの事を好きなのかと問われている。川口さんの目は真剣で本当に知りたいんだと思わせた。言ってる意味は分かる。友達としての好きではなく恋愛対象として好きかと問われているのだ。僕のこの感情を何と言えば良いのか分からず言葉が出てこない。
「……ごめん」
「え?」
僕が頭を必死に悩ませている最中に川口さんの中で何かを思ったのかは分からないが急に謝りだした。
「私がそこまで踏み込んでいいもんじゃないよね」
「……」
僕が越谷さんの事を好意的に見ているのは間違いない。だがこの心が恋心なのだろうか。僕には本当に分からなかった。
「重い感じにしちゃってごめん!!本当に気にしないで」
「……うん」
この後は他愛のない話を少しして解散となった。川口さんは本屋に戻っていき、僕は帰宅する事にした。帰り道、ふと徐々に暗くなっていく空を見上げて溜息をついた。電車の中でも二人の事が気になりながら満員電車にもみくちゃにされながら帰路に着いた。
家について自分の部屋に戻りながら越谷さんにメッセージを送ろうか悩む。川口さんの言う事を信じるなら特に問題なく済んだみたいだが、越谷さんにも聞いた方が良いのでは?と自問自答する。う~ん、どうしようと悩んでいるとスマホがブブッとバイブする。
『今、大丈夫か?』
本庄君からのメッセージだった。越谷さんからメッセージが来たと思ったので正直拍子抜けしてしまったが、急いで返事をする。
『大丈夫。どうしたの?』
『おお、六月頭に新入生合宿あるだろ。明日それの話し合いするらしいからそれについて』
『ああ、そういえばそんな行事あったね』
新入生合宿、東南学園高校一年生の行事で二泊三日で行われる。集団行動、ハイキング、飯盒炊飯など新入生が集団で共に生活する事で距離を縮めようという趣旨の元に行われる……らしい。そういえば陰キャにとって天敵となる集団での宿泊という闇のようなイベントがあった。こういうのって一人余って何処か人が足らない班に強制的に入れられて微妙な空気になるのが鉄板だよね!!
『班をどういう風に決めるか分からないけど俺ら、同じ班になろうぜ』
本庄君からのメッセージが来て僕はひゃっほーいと飛び上がる。本庄君のその優しさが身に染みる。彼はクラスに友達が沢山いるのに、僕が友達全くいないから誘ってくれているのだろう。陰キャに優しい陽キャ過ぎる……。僕はその存在に心の感謝を捧げる。
『分かった!!誘ってくれてありがとう』
『いや、春日部、こないだの体育の授業見たら運動神経良さそうだから何かと便利そうだし』
……、まあ、そのくらい正直に言われた方が僕としても気楽なので全然良いんですけどね。そら僕を理由なく誘うなんてことないよねと上がっていたテンションがちょっとだけ落ちる。
そういえば新入生合宿か、どんな行事になるのだろうか。イマイチ、どんな行事か分かっていないが明日そのあたりの説明があるのだろう。その後は関係の無い話をしていたが本庄君が用があるといってメッセージのやり取りは終わった。そういえば越谷さんにメッセージをしようと思っていたが、夜遅くなってしまっていたので明日また聞けばいいかと思い連絡をするのを止めておいた。ふと今日の事を思い出した。
「そういえば川口さんはどうして僕が越谷さんの事をどう思っているか聞いたんだろう」
気付けば口から零れていた。この世の中は僕には分からない事が多すぎる。
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