第31話

 川口さんと喫茶店へ行ったあの日から数日が経ったある日、体育の授業での出来事であった。


 「じゃあ、ニチームに分かれて、決まったら始めるから」


 授業の内容はドッチボールでクラスの男子を二つに分けて試合するというもの。ちなみに女子は体育館で別の球技をするそうだ。僕の友達は本庄君しかいない為、彼にチームに入れてもらえるように頼むしかない。


 「ほ、本庄君」


 「お~、春日部、同じチームになるか」


 流石本庄君、何も言わずとも僕の意図を汲んでくれている。こういうところが人気者たる所以なのだろう。


 「え~、本庄、春日部をチームに入れるのか?」


 本庄君の友達の小川君が本庄君に尋ねる。うっ、僕みたいなぼっちをチームに入れるのが嫌なのだろうか。


 「小川、春日部が同じチームになるのが不満なのか?」


 本庄君が怒気をはらんだ声で問いかける。僕を庇ってくれているのだろうか。やっぱり優しいな。


 「いや、そうじゃねえよ……。ただ春日部が入ると相手チームが殺気立つんだよ……」


 そう言って小川君が指さす方向を見ると、何故か多くのクラスメイトが僕の方を睨んでいる。


 「僕、そんなに嫌われてるのか……」


 ショックで思った事をポロっとこぼしてしまった。クラスメイトから好かれているとは思ってはいないが、嫌われていると思っていなかったためかなり心に来る。


 「いや、春日部の事が嫌いというよりモテない男達の嫉妬だよ」


 「へ?」


 僕と本庄君は意味が分からない為アホみたいな声を出してしまった。僕達をスルーして小川君は続ける。


 「いや、お前越谷さんと付き合ってるじゃん?何でアイツがあんなに可愛い子と付き合ってるんだ!てな感じでよく分からない敵対心でまとまってるんだよ」


 「な、なにそれ!?僕達付き合っていないんだけど!!」


 「ええ、そうなのか?あの距離感で付き合っていないって言われてもな……」


 正直、クラスメイト達からあの二人付き合ってるんじゃないのという話をしているのは聞こえてしまった事があったため知っていたがまさかそれで敵対心を生んでしまったのか。


 「まあ、いいや。春日部が最初から外野行けば関係ないか」


 「確かに」


 こうして二つのチームに分かれた後、僕は外野に行くのを見たクラスメイト達からブーイングが聞こえて来る。


 「ふざけんな。何でアイツ外野なんだ」


 「アイツに当てないと意味ないんだよ」


 「〇ロス……」


 相手チームからまるで呪詛の様な言葉が投げかける。話を聞いて思ったがやっぱり納得出来ない。付き合っていないのに勝手に恨まれて。ていうか越谷さんそんなに人気あるのか。まあ可愛いしそらそうだよね。僕はモヤっとしながらも配置に着く。


 こうして試合が始まった。当初僕への殺意でまとまっていた相手チームがまさかの僕が最初から外野へ行った為、戦意が削がれたのかこちらのエースである本庄君の投げたボールによってポコポコ当てられていく。


 「お~い、こっちのチームやる気なさすぎるだろ。体育の成績に関わるんだから真面目にやれ」


 あまりの一方的な展開に先生が怒り始めてしまった。


 「でも春日部が外野にいるなんてやる気が出る訳ないですよ!!」


 そーだ、そーだと相手チームのメンバーが騒ぎ始めた。


 「よく分からないが春日部が内野に入ればやる気上がるのか?じゃあ、春日部内野に行ってくれ」


 「え」


 という訳で僕は内野の一人と交代させられてしまい、内野に入った。その瞬間相手チームから歓声が上がる。


 「やったあああああ」


 「アイツにボール当てたやつに褒美を与えよう」


 「コ〇ス……」


 これ、ボッチの僕に対して言ってるんだから一種のイジメじゃないかと不満に思いつつも構える。まず間違いなく僕にボールが投げられるためだ。そして相手ボールから始まる。


 「悪く思うなよ。春日部くらえっ」


 当然僕にボールが投げられる。その瞬間バレーのレシーブの体制になりボールが腕に当たった瞬間上手く上に弾いてふわっと浮かせた。


 「へっ!?」


 ボールを投げた生徒は意味が分からないといった具合に放心している。そのフワッと浮いたボールを本庄君がキャッチする。


 「これでマイボールだな」


 「春日部~、ナイス!!」


 声がする方を見ると、先に授業が終わったのか体育館から何人かの女子が僕達の試合を見ていた。その中に越谷さんがいて僕に声をかけてくれたみたいだ。その様子を見た相手チームが更に絶望した顔をし、その後は本庄君が相手チーム全員にボールを当てて僕達のチームが圧勝した。

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