第21話

他愛のない話をしながら歩いていたら水族館に着いた。外観はまあまあ古いが中はどんなものなのだろうか。


 「ほら、早くチケット買って中入ろ」


 越谷さんは僕の腕を掴んで券売機まで引っ張る。何故か分からないけど越谷さんがウキウキしている気がする。だって引っ張ってる腕すごく強いもん。コブ〇みたいに腕すぽんって抜けちゃう。


 「わ、分かったから、腕がちょっと……」


 「あっ、ごめん……」


 越谷さんテンション上がると人を引きずる癖でもあるのだろうか……。何回かこのやり取りしている気がする。


 「で、でえじょうぶです」


 指でVの字を作ってとぼける。越谷さんはフフッと笑う。やっぱり越谷さんは笑うと可愛い。こんなに可愛い人と並んで歩いているだなんて周りから何と思われてるんだろう。何であんな冴えないやつが隣にいるんだろうと思われてるんだろうか。


 「……、春日部暗い顔してるよ」


 「ふぇっ!!」


 声をかけられてビックリしてジャンプしてしまった。急に飛んだからか恥ずかしくなって顔が熱くなる。


 「ふふ、やっぱり春日部って変だよね」


 「そ、そうかな?」


 思わず照れて笑ってしまう。


 「うん、やっぱり春日部は笑ってた方が良いよ」


 「え?」


 「ううん、何でもない。早く行こ!!」


 こうして僕達はチケットを買い水族館の中に入る。中に入ってしばらく歩くと辺りが暗くなって小さな水槽が廊下の左右に配置されているスペースが出てきた。


 「あっ、春日部、この魚、昔のアニメであるやつじゃない?」


 水槽の横にカクレクマノミと書かれたパネルが貼ってある。カクレクマノミはイソギンチャクと共生関係にあるとの事。イソギンチャクの触手には毒がある為、生き物は近寄る事が出来ないがクマノミは毒に耐性があるため触れても大丈夫。そう言った訳でクマノミは外敵から守られ、逆にイソギンチャクはクマノミによって新鮮な海水を送っているのだそうだ。


 「へ~、クマノミとイソギンチャクってそんな関係にあるんだ」


 説明文を読んで素直に関心する。


 「共生……、字の通り共に生きるって事だよね」


 「そうだね。お互いが協力しあって寄り添って生きていくんだろうね」


 「……、何か憧れちゃうな……」


 越谷さんは何か小声で話したかと思ったら先に言ってしまった。その声はあまりに小さく僕には何と言っているか分からなかった。


 その後も色々な魚を二人で見ながら先へ進む。水族館なんて子供の頃に行ったきりだったけど思ったより楽しいし越谷さんも楽しそうに見えた。


 ドンドン先へ進むと、周り360度がガラス張りのトンネル水槽が出てきた。


 「わ~、凄い凄い」


 越谷さんはテンションが上がっているのか。ぴょんぴょん跳ねながらスマホで写真を撮っている。こうして見るとまるで子供だ。こうして関わるようになってきてクールなイメージだった印象が変わっていく。


 越谷さんは水槽にいる魚を撮っていると越谷さんの目の前に大きいサメが急に陰から現れた。越谷さんはわっと驚いてバランスを崩して転びそうになってしまう。


 「あぶなっ」


 僕は咄嗟に彼女が転ばないように片腕を掴んだ。越谷さんはすんでの所で尻もちを付かずに済んだ。僕はふっとため息をついて優しく引っ張り立たせてあげる。


 「ごめん、ありがとう」


 越谷さんははしゃぎすぎて恥ずかしいのか顔を赤くしている。


 「ううん、大丈夫。それより痛いところない?」


 僕は彼女がケガをしていないか見つめる。すると越谷さんはすっと前に振り向いて先へ早歩きで行ってしまう。転んだばかりなんだからゆっくり行こうよと思ったがゆっくり彼女を追いかけた。

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