第20話
こうして僕達は雑貨屋に向かった。喫茶店から徒歩ですぐの所にあったので助かった。真っ直ぐ財布が置いてあるコーナーへ向かうと二人で見始めた。
「え~と、財布ってどれくらい……えっ、二万円……」
財布の値段を見ると安いものでも一万円で高いものは三万円以上のものもありとても手が出せそうにない。
「いやいや、学生がそんな高いの持つ必要ないよ。学生向けのこっちにあるよ」
越谷さんが指さす方を見ると先ほどのものより多少見劣りするが、かなりリーズナブルな値段になっている。二千円から五千円くらいなのでこれなら僕でも買えそうだ。
「これなんか良いんじゃない、値段も三千円だしぱっと見小さいけどポケット広いし」
「おっ、良いね。それにしよう」
越谷さんが手にした黒い二つ折りの財布だ。見た目は中々かっこいいし値段も手ごろだ。何より僕より遥かにセンスが良い越谷さんがオススメしたものだ。それにしようと彼女から受け取ろうとした所、越谷さんはそのまま持ってレジに向かおうとしていた。
「これ買ってあげるよ」
「え!?そんなの悪いし自分で買うよ」
「良いの、今日何か奢るって話したでしょ」
「いや、奢るってジュースとかもっと安いものかと思ってたから」
「良いよ良いよ。だって私が財布買いなおしなさいって言ったんだし、それに私バイトしてるし」
「バイトしてるんだ……、ってそれでも三千円もするし大丈夫だよ!」
「……それじゃあさ、今度、私の誕生日になったら……」
「誕生日?」
誕生日の話になった途端、越谷さんは顔を赤くして下を向いてしまった。どうしたんだろうか。
「た、誕生日プレゼントで返して!!それならいいでしょ?」
「誕生日プレゼント……、分かった。でも、僕ってこの通りセンスがないから女子に何あげればいいか分からないよ?」
「フフッ、じゃあその時までに考えておいて!!」
越谷さんはニッコリ笑うとそのまま振り返りレジまで走っていってしまった。誕生日プレゼントか……、何を買えばいいか全く浮かばない。僕は頭を悩ませながら越谷さんを追いかけた。
こうして僕の新しいお供(財布)を手に入れた。脳内でファンファーレが鳴っている。新しい相棒よ……、よろしくな。僕は新しい財布を見つめて目で語り掛ける。
「春日部、何してんの……」
越谷さんからジトっとした目で睨まれる。いけない、道端でトリップしてしまった。恥ずかしい。何か誤魔化さなければ。
「越谷さんからのプレゼント嬉しいなって感激していたんです!!」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ」
越谷さんがふいっと目をそらす。え、僕また変な事言っちゃったのかな。女子心って全く分からない!!
「ま、まあ、お返しのプレゼント楽しみにしてるから!!」
「へ、へい……」
越谷さんが満足するようなプレゼントを考えなければいけないことを思い出して頭を抱える。女子が欲しいものって何なの~。とまあ、悩む前に水族館に向かわなければ。いくら近くにあるといってもあまり遅くなる訳にはいかない。
「じゃ、じゃあ、水族館に行きましょうか……」
「ふふっ、うん」
まあ、越谷さんも何だか楽しそうだし良かった。僕たちは水族館まで並んで歩く。
「そういえば、何で水族館なの?」
隣で歩く越谷さんから声をかけられる。何て返せばいいのだろうか。近くにあったからって理由だけじゃだめだよね……。う~んと頭を悩ませて言葉を絞り出す。
「越谷さんと一緒に行きたいと思ったから」
「春日部ってジゴロなの?」
越谷さんに呆れた顔をされてしまった。
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