第22話

 水槽トンネルを抜けた先には壁一面がガラス張りの巨大な水槽が広がっていた。


 「おお~、すごいなあ」


 僕はその迫力に圧倒される。中にはエイや小さな魚が数えきれないほどたくさん泳いでいる。ふと横の越谷さんを見るとその景色に魅了されているのか水槽全体を隅から隅まで見ているようだ。僕はその光景を見てそっとした方が良いと思ったので同じように水槽を眺める事にした。


 「そういえば、水槽のサメとかエイって小さな魚とか食べたりしないのかな?」


 5分くらいたった時だろうか、越谷さんから話かけられた。水槽をずっと眺めていたからふと疑問に思ったのだろうか。水槽の中を見て感動しているのかと思ったら、割と物騒な事考えているな。


 「そういえば、聞いたことあるよ。中の魚ってスタッフからエサを与えられるから、わざわざ泳いでいる魚をおっかけて食べようとしないんだって」


 「へ~、そうなんだ」


 テレビでそのような事を言っているのを聞いたことがあって助かった。ふとした時の雑学として使えるなと思った。越谷さんは話を聞いて満足したのか次の展示に向かって歩き始めた。僕もその後ろを付いて行く。


 少し歩いた所に大きな広場があった。水族館でよくみるイルカショーなどをやる施設に見える。もしかしたらイルカショーなど見れるのかなと思ったが看板が置いてあり、本日のイルカショーは終了いたしましたと書いてある。越谷さんも同じ看板を見たのか落ち込んでいる。


 「あ~、折角ならイルカショー見たかったね……」


 越谷さんは残念そうにそう語る。


 「なら、今度はイルカショーやってる時間に来なきゃね」


 「えっ」


 越谷さんは目を丸くして僕を見ている。僕、また変な事言ったのかな。


 「そ、その時はまた二人で来ようね」


 「う、うん」


 何でか分からないけどまた一緒に水族館に行こうと誘われた。反射で返事してしまったけどまあ良いか。それにしても帰る前から次回の約束をするなんてよっぽど水族館が気に入ったのだろうか。


 こうしてまたしばらく歩くと出口の看板が見えた。そして出口の横にお土産用の売店があった。水族館のマークのクッキーやら魚、イルカのぬいぐるみなど置いてあるようだ。その売店の存在に気付いたからか、越谷さんは物凄い速度で売店に向かった。は、はや……。僕も慌てて売店に向かった。


 越谷さんに追いつくとイルカのぬいぐるみを持ち上げている。


 「あっ、春日部、このイルカのぬいぐるみ可愛くない?」


 「う、うん」


 越谷さんはぬいぐるみを持って頬をうずめている。こういう売店のぬいぐるみは色々な人が触るからそんなに頬付けない方がいいと忠告しようかと思ったが、あまりに嬉しそうな笑顔だったので無粋だと思い止めた。


 「あっ、これ可愛いよ」


 僕はふと見かけたタコの帽子を見つけ手に持った。何故かデフォルメされていないリアルなタコとリアルな触手がウネウネ動いている帽子だ。


 「えっ、春日部、そういうのが趣味なの……」


 何故か、越谷さんがドン引きしている。何で!?さっきまで水槽の中見て可愛い可愛いって言ってたのにリアルなタコの帽子は可愛くないの!?とそんな事をやった後、帰る事になった。僕たちは出口から外に出て大きく伸びをする。


 「あ~、歩き疲れた~、けど楽しかったね!!」


 「うん、想像したより色々なものが見れて良かった」


 「春日部、今日、水族館誘ってくれてありがとね。楽しかった」


 越谷さんは満面の笑みで僕に微笑みかけた。僕はその笑顔を見て誘って本当に良かったと思った。ただ同時にああ、もう終わりか。僕は何故か落胆している。何でだろう。この水族館がそれほど楽しかったということだろうか。自分で自分の気持ちが分からなかった。

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