第14話

 たった数日で僕の日常は大きく変わった。ふとしたきっかけで隣の席の越谷さんと話すようになっただけでなく、本庄君と友達になり話をするようになった。この間は川口さんとたまたまとはいえ休日に遊びに出掛けた。更に今日は放課後、越谷さんと一緒に出掛ける約束までしてしまった。なんかここまで行くと僕って陰キャを脱却したといえるのではないだろうかなどボケっーと考える。


 「春日部、アホ面で何考えているの」


 隣の席から話しかけられる。当然左の席の越谷さんだ。休み時間ボケっと考えている僕を見て呆れた顔でじっと見ている。


 「ア、アホ面って」


 「口開けポカーンとしてたんだからアホ面で間違いないでしょ」


 えっ、僕って口開けてたの。口開けた自分の姿を想像して急に恥ずかしくなって顔が熱くなっていくのを感じる。


 「も、もしかして私と何処行こうか考えてた……とか?」


 越谷さんは何故かモジモジとしながら下を向いて話している。どうしたんだろうか。


 「いや、また別のことだけど」


 さらっと返した僕を先ほどと同じ様な呆れた顔でじっと見つめて来る。え、正直に答えただけなのに。


 「そ、そこは嘘でも……、まあ、春日部って女子と一緒に遊ぶことなんてなさそうだもんね」


 「えっ、ま、まあそうだね」


 この間、川口さんと出掛けたことを思い出したが流石に川口さんの事を考えて隠した方が良さそうだよなと思い濁した答えになってしまった。


 「は?春日部、女子と一緒に遊んだことあるの?」


 いつの間にか越谷さんは僕に触れそうなくらい僕の机まで椅子を近づけてずいっと僕に迫っていた。


 「え、こ、越谷さん近くない?」


 「今、そんな事どうでもいいんだけど」


 越谷さんは先ほどの呆れた顔とは打って変わって表情が完全に死んでいる。え、これどんな感情なの?


 「い、いや、この間、たまたま街中であったからちょっとお店に寄っただけだよ」


 「ふーん。それって、も、もしかして彼女?」


 「プッ」


 笑ってしまった。この僕に彼女など出来る訳ないじゃないか。あまりに有り得ない事なので思わず噴き出してしまった。


 「笑いごとじゃないんだけど」


 目のハイライトが完全に消えている越谷さんが僕を覗き込んでいる。いや、本当に怖いんだけど、これどういう感情なの?


 「い、いや、僕に彼女なんて出来るわけないじゃん」


 「ふーん、それならいいんだけど、その子って同じ学校?私が知ってる人?」


 まずい、流石にこの学校のマドンナ的存在である川口さんの名前を出すわけにはいかない。越谷さんが言いふらすとは思わないが誰かにこの話が何処からか漏れたら大変な事になる。僕は何て答えるか悩んで、チラッと越谷さんを見ると首を傾げたまま目のハイライトが消えた越谷さんが座っている。まるで此方を覗き込むフクロウみたいで怖すぎる。


 「い、いや、越谷さんの知らない人だよ」


 「……ふーん、そっか」


 まあ、越谷さんが川口さんの事を知らない可能性もあるし嘘を言った訳じゃないといいなあ……と頭を悩ませる。何で今日の越谷さんはこんなに怖いんだ。

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