第9話

 越谷さんと一緒に帰ってから次の日、土曜日で学校が休みなので都内の大きな本屋に行くために電車に乗っている。地元にも本屋があるがやはり大きい本屋の方がワクワクする。電車で40分程、新宿まで来た。駅から5分程歩くとお目当ての本屋に着いた。まずは新作のエリアを見ようかな。


 「あれっ、春日部君?」


 「えっ」


 僕を呼ぶ声の方を見ると、川口さんが立っていた。当然だが普段の制服姿とうって変わって、グレーのロングスカートに黒のブラウスで清楚なイメージそのままにとっても眩しく見える。


 「春日部君、買い物?」


 「ああ、うん。なんか面白い小説がないかなと思って」


 「そうなんだ……。春日部君、この後時間あるの?」


 「え、うん。今日はこの後別に予定ないけど……」


 「じゃあ、一緒に面白いものがないか見てみようよ」


 「え!?」


 それって、一緒に本屋を周るってことだよな。そのような経験が全く無い為、どうしようか脳内会議が始まっている。う~ん、向こうから誘われてるし、一緒に行こうで可決!!と脳内でアホみたいな事を考えた後、彼女の提案を了承した。


 「そういえば、春日部君って家埼玉だよね?」


 「うん、そうだよ。新宿まで40分くらいかかった」


 「そうなんだね。何でわざわざこっちまで来たの?」


 「いや~、そうなんだけど、本屋行くなら大きいほうが良いなあって」


 「それな!!」


 ん?今のそれなって台詞、川口さんの口から放たれたのか?川口さんの顔を見ると何故か僕から目をそらして反対の本棚を見つめている。何かごまかしてる?


 「……、コホン。で、何処見よっか?」


 「あ、ああ、まあ、新作のエリア見るのはどう?」


 「それアリ」


 川口さんがそう言った途端、今まで見たことのない程の汗が噴き出しているのが分かった。


 「か、川口さん?」


 「ごめん、私って普段こんな喋り方なの。学校だと何かよく分からないけど令嬢みたいな扱いされてるから……」


 えー、要するに、学校だとキャラを作って話をしているって事なのか。脳内で考えるが今一要領を得ない。川口さんの話を待つか。


 「うう、学校だと清楚なお嬢様みたいな扱いされるから、こんな話し方だと駄目かなって」


 「そ、そんな気にしなくてもいいんじゃ」


 「私もそう思うんだけど、ここまで来ちゃったから。この事黙っててよ?」


 川口さんが上目遣いでこちらを見る。うっ、可愛すぎる。それ卑怯でしょうに。


 「分かったよ。誰にも言わない」


 僕がそういうと川口さんは笑顔になってピョンピョン跳ねている。本当に学校でのキャラと違うな。もしかして今日土曜日だからか、気が抜けているんだろうか。まあ、こんな感じの可愛らしい姿も学校に居るファン達も喜ぶんじゃないかと思うが、まあ、そこまで言う必要ないか。


 「じゃあ、はやくあっち見よ!!」


 川口さんは僕の腕を掴んでトコトコ進んでいく。うおおおお、引きずられる。その後、本屋全体を引きずられながら駆け巡り本屋を出る頃には僕は息絶え絶えになっていた。


 「たのしかったね~」


 「ハア、ハア、そうだね……」


 すっかりキャラを隠す気が亡くなった川口さんはニッコニコで話してくる。何とか僕は返事をする。マジで疲れた……。


 「なんか、凄い疲れてるね。この後、喫茶店でも行く?」


 「え」


 「この後、暇なんでしょ。今日一日遊ぼうよ!!」


 こうして僕は一日、川口さんと一緒に過ごす事が決まってしまった。

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