第8話
越谷さんが何故怒っていたのかは結局よく分からないまま、授業に入り放課後になった。そういえば本条君の用って何だったのだろうか。聞いてみるか。
「ほ、本条君」
前の方の席に座っていた本条君に声をかける。本条君は座ったまま僕の方へ振り向く。
「ん~?どうした?」
「いや、そういえば、また後でって言ってたから気になって」
「ああ、それか。別に大した用じゃないんだが……」
「ねえ、春日部一緒に帰ろ!!」
急に後ろから越谷さんが肩をつかんできた。いきなりの出来事に僕はぴょーっと鳴き声を出してジャンプした。脅かせないで欲しい……。ていうか、何て言った?イッショニカエロウ?
「あ~、越谷さん、悪かったな」
「全然大丈夫。春日部、じゃあいこっ」
僕は無理やり服の首元を掴まれて越谷さんに引きずられる。何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!僕は慌てて自分の鞄だけは確保してそのまま教室の外まで引きずられた。当然クラスメイトはその様子を見て怪訝な顔をしていた。ううっ、そんな目で見ないで欲しい……。
「こ、越谷さん、どうしたのさ」
「あ、ご、ごめん」
教室を出たところで越谷さんは我に返ったのか。パッと僕を離してくれた。一体どうしたというのだろうか。越谷さんの顔を見ると顔を赤くしているように見える。
「春日部、ごめん。首元痛くなかった?」
落ち着いたのだろうか。越谷さんは僕の顔を見て心配そうに聞いてきた。僕は大丈夫、問題ないと返事をする。
「また、適当な返事して……」
「ご、ごめんって、本当に大丈夫だから……」
「そ、そう?なら良かったけど」
越谷さんは何だかモジモジシテ(して)いる。さっきから越谷さんの様子が変だぞ。調子でも悪いのだろうか。越谷さんが何を言うのかと待つが。一向に話そうとしない、本当にどうしたのだろう。
「越谷さん、で何か用があったんじゃないの?」
「っ、え、えと、春日部ってこの後、用事ある?」
「え、いや、無いよ。家に帰るだけ」
僕がやっている図書委員は当然だが毎日当番があるわけではない。昨日やったばかりなので今日は当番がない。
「じゃ、じゃあ、一緒に帰ろうよ」
「は、はい!!」
どうやら教室で聞いた言葉は聞き間違いでは無かったらしい。本当に僕と一緒に帰るつもりみたいだ。まあ、男女で一緒に帰る事は恥ずかしいが、可愛い女の子に誘われて内心バクバクしている。
「じゃあ、帰ろ、春日部って電車だよね?家どっちの方?」
「僕は埼玉の方だよ」
「あ~、じゃあ、反対側だね。じゃあ駅まで一緒に行こうか」
「了解です」
こうして僕達は二人で並んで歩く。気のせいかもしれないが周りの生徒がチラチラとこちらを見ている気がする。自意識過剰なのだろうかと思ったがどうやらみんな越谷さんを見ているようだ。そら、僕の様なモブなど眼中にないか。
「はあ……」
「どうしたの?溜息なんてして」
「ああ、いや、僕のモブ力に絶望していたところさ」
「何言ってんの?」
越谷さんは本当に意味が分からないといった顔で僕を見ている。僕は苦笑いしてトボトボ歩く。まあ、僕のようなモブがこんな美人と並んで歩ける幸福を喜ぶことにしようと心の中で思ったのだった。
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