第6話

 越谷さんに勉強を教えるといっても、普段は何も変わる事なく授業を受け休み時間には多少話したりするくらいだった。変わった事といえば四時限目の後のお昼休憩の事だった。僕はいつも通り、母さんに作ってもらったお弁当を食べようと鞄から出した時に起きた。


 「あっ、春日部」


 越谷さんから声をかけられそちらに振り向く。僕に何か用だろうか。


 「どうしたの?」


 「えーと、さ、昼、一緒に食べない?」


 「ああ、良いよ」


 僕は許可を出した後に、あれ、これって女子と一緒にご飯を食べる事になるんじゃないのかと気付いた。中学校の時は給食で女子と席をくっつけて食べるのが決まりだった為毎日していた。だが今はそんな決まりなどない為、めちゃくちゃ恥ずかしい事なんじゃないのか。


 「春日部、どうしたの?」


 「ああ、いえ、なんでもございません」


 「また、変な口調になってる……」


 越谷さんは自分の机を僕の机に並べる為に机を運んだ。おいおい、隣の席なんだからくっ付けなくてもよくないですか?と言いたかったがさっと動かしてしまったため憚られた。


 「どうしたの?早く食べよーよ」


 「へい……」


 何でまた変な返事するのと小言を言われながら僕はご飯を食べる為に机の上を整理して弁当を広げる。おっ、今日はおかずハンバーグか。僕の好物が入っていて内心テンションが上がっていると越谷さんがじーっと僕の弁当を見ている。


 「こ、越谷さん、どうしたの?」


 「春日部の弁当、すごい美味しそう……」


 僕は越谷さんの机を見るとコンビニで売られているサンドイッチとサラダが置いてある。え、女子ってあれで足りるの?というか越谷さんは僕の弁当から目を離さない。仕方ない……。


 「越谷さんどれ食べたいの?」


 「えっ」


 「あげるよ。食べたいんでしょ?」


 「え、いいよ。春日部の食べる分減っちゃうじゃん」


 「ちょっとだったら全然大丈夫だから」


 「え、じゃあ、私のサンドイッチと交換しようよ!!」


 越谷さんはサンドイッチの封を開けてサンドイッチをこちらに渡して来た。まさかサンドイッチとの交換になるとは思わなかったが僕はそれを受け取り弁当の上に乗せた。


 「じゃあ、ご飯とハンバーグあげるよ」


 僕はご飯とハンバーグを弁当の蓋に乗せて越谷さんの机に乗せた。ハンバーグは好物だが彼女が一番見ていた気がした。

 

 「えっ、ありがと……」


 彼女は心なしか笑っているように見える。喜んでくれたようで良かった。そこでふと正面を見たらクラスメイトがチラチラこちらを見てコソコソ話しているような気がする。


 「あっ」


 僕はその視線の意味に気が付いてつい声が出てしまった。誰とも普段話さないギャルが僕のような陰キャと机を並べて昼食のやり取りをしているのが疑問なのだ。もしかしたら付き合っているのだろうかなどと話しでもしているのかもしれない。僕は声をあげて弁明したくなるが実際にそんな話をしているかは分からないし、何よりそんな度胸がなかった。


 チラッと越谷さんの方を見ると嬉しそうにハンバーグを食べている。視線には気が付いていないようだ。彼女にはこの事を伝えない方がいいだろうか。まあ、僕の自意識過剰かもしれないのだ。何故ならこんな陰キャが越谷さんのような美人と付き合えるわけがないのだから。

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