第5話
図書委員の仕事があった翌日、眠い目を擦りながら登校する。友達がいない為、黙って教室に入り自分の席まで歩く。
「おはよ」
自分の席の前まで来たところで隣の席の越谷さんが手を振って挨拶をする。
「お、おはよござっます」
全く挨拶をすると思っていなかったため、急には声が出なかった。恥ずかしい。僕は顔を赤くしながら鞄を机の横のフックにかけて席に着く。
「ねえ、今日ってまた日本史の授業あるんだっけ?」
「うん、そうだね」
「ああ、また教科書読まされるのか、めんど~」
越谷さんはぐでーと机の上に頭を伏せた。確かに日本史って暗記科目だからか、生徒に読ませる事多いよなと考える。まあそのおかげで隣の席の越谷さんと接点を持つことが出来て話す様になったのだから悪い事ばかりでもないなと思う。
「でも真面目に受けないと一学期の中間って五月だし覚えないと」
「ああああああ、ママみたいなこと言わないで……」
僕が追い打ちをかけてしまったのか。机の上で寝そべって黒いオーラが出ている。というか越谷さん、母親の事をママって呼んでいるのか。結構可愛い所あるなとうんうん唸る。
「越谷さん、勉強苦手なの?」
「うっ、正直この学校推薦で入ったんだよね。授業受けてても難しくてさ……。不相応なところ入っちゃったかな」
失礼な事を考えるようだが、その髪型とかピアスで推薦出るものなのか。もしかして高校デビューというやつだろうか。
「まあ、まだ中間までまだ日数あるんだし全然大丈夫じゃない」
「さっきから上から言ってるけど春日部って勉強できるの?」
顔を僕の方にくるっと回してジト目で僕を見つめる。
「そんな悪くないはずだよ。入学後の学力テスト満点だったし」
「へっ、そうなの!?」
そうなのだ。恥ずかしながら遠い学校に行きたいがために受験勉強を頑張っていたため、成績は悪くない。高校へ入って付いていけるかと不安になっていたが今の所、授業の内容も理解出来ているので大きな問題にはなっていない。
「だ、だったらさ」
越谷さんは急に立ち上がる。僕はそれにビックリして椅子からずっこけそうになったが何とか落ちずに済んだ。
「私に勉強を教えてよ。正直、もうこの時点でよく分からない教科が出てきてて」
僕はその言葉を聞いて、う~んと悩んだ。別に僕が越谷さんに勉強を教えるのが嫌だからではない。だが今まで人に教えた事などないし、先生などその道のプロに聞いた方がいいのではないだろうかとも思う。授業が付いていけなくてと悩む生徒だったらどの先生でも快く教えてくれるだろう。
「だ、だめ?」
「別に僕はいいんだけどさ。先生とかに教わった方が為になるんじゃないのかなって思ってさ」
僕は正直に思った事を提案する。すると越谷さんは苦い顔をしてしまった。何かまずい事でも言ってしまっただろうか。
「正直さ、私格好こんなんじゃん?だから私の事良く思っていない先生も多いみたいでさ」
なるほど、いくら校則が緩いと言っても思いっきりのギャルの格好をした生徒より、ピッチリとし生徒の方が可愛いがるのは仕方がないのだろう。だが勉強で困った生徒を見捨てるほど薄情でもないと思うし越谷さんの気にしすぎではとも思ったが。真剣に悩んでいる越谷さんには言えない。仕方ない。
「分かった。僕で良ければ協力するよ」
「ほ、ほんと!?」
「うん、勉強って人に教える時の方がよく覚えるって言うし、自分の復習にもなって良いからね」
僕がそういうと越谷さんはぱあっと明るい笑顔を見せた。うおっ、まぶしっ。
「じゃあ、春日部せんせー。お願いね!!」
「先生は恥ずかしいから辞めようか」
こうして、僕は越谷さんの勉強を見ることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます