第4話
その後、僕と川口さんは図書室でせっせと仕事をこなしていく。返却された本を元の場所に戻すなどの業務が終わった後は二人で受付に入り、お互い本を読んでいる。お互い無理に話したりせず読書が出来る為、この時間は嫌いじゃない。
「ねえ、春日部君」
そんな事を考えていたら川口さんから話しかけられる。基本的に僕から話しかける事はないがこうして川口さんからたまに話しかけられる。
「どうしたの?」
「春日部君って他の男子と全然違うよね」
「な、なにがだろう」
「いえ、他の男子って私と二人きりになったら凄い話しかけて来るか。そんな度胸がない人はチラチラこっちの様子を見てくることが多いんだけど。春日部君ってずっと本読んでるじゃない」
それは僕が読書好きなのもあるが何よりコミュ障過ぎて、自分から女の子に話す様な勇気も意味もないだけです。そんな情けない事を考えるがあまりにダサすぎるので言わないでおこう。
「ま、まあ、僕って見たまんまで、あんまり話すタイプじゃないし」
「それは私にも分かる」
川口さんからキッパリ言われてちょっと傷付く。自覚していても人から言われるとダメージになるのだ。川口さんは物事を真っ直ぐ伝えるタイプらしい。
「春日部君、大人しいタイプっていうのは分かるんだけどその割にはたまに変な事するよね」
「変な事!?」
身に覚えがなさ過ぎてビックリした。え、僕ってそんなおかしな行動をしているんだろうか。
「こないだ、私達が受付にいて、他の生徒が本借りに来た時、いきなり春日部君が立ち上がっていらっしゃいませーって挨拶したじゃない」
ああ、図書委員に成りたての時、緊張しすぎてたんだ。急に本借りたいんですけどって話かけられてテンパってお店の従業員みたいな行動をしてしまったんだ。ちなみにその時、普段クールな川口さんがお腹を抱えて笑っていた。あまりに笑いすぎて川口さんの長い黒髪がグワングワン乱れて大変そうだった。
「フフ、今思い出しただけでも笑っちゃう」
「よ、喜んで貰えて嬉しいです……」
川口さんは手で口元を抑えて笑いを堪えている。ふふ、こんな僕が人を笑わせる事が出来て嬉しいよ。そんな事を話していると下校時間のアナウンスが校内に流れた。僕らの仕事もここまでか。図書室を見ると、利用者たちも立ち上がり帰る準備をしている。
「じゃあ、私達も準備をしましょうか」
「了解」
周りの生徒達が図書室を出るのを確認した後、書棚を簡単に点検する。その後、窓の鍵を閉めようと思った時、グラウンドの陸上部が一生懸命、部活動に励んでいる姿を見えた。僕は過去の事を思い起こしそうになったがすぐに考えないように蓋をして窓の鍵を閉めた。
「春日部く~ん、終わった?」
入口で図書室の鍵を持った川口さんが呼びかける。僕はすぐに行くよと返事をして入口まで早歩きで戻る。
「じゃあ、いつも通り、鍵職員室に戻してくるから」
「いつもごめんね。たまには俺が鍵戻しに行こうか?」
いつも、川口さんに職員室に鍵を戻しに行く作業を任せてしまって申し訳ないので自分もやるよと宣言するが彼女は首を横にする。
「いいよ。春日部君には重い本とか運んでもらってるし。これくらい大丈夫だよ」
「でも……」
「じゃあ、今度アイスでも奢ってよ」
「ああ、それなら全然……、ってうぇ!?」
それってどういう事だろう。ああ、食堂横にあるアイスの自販機があるからそれを今度買ってこいってことか。
「フフ、じゃあ、またね」
川口さんは僕に手を振る。でもコミュ障の僕は振り返せずに会釈をする。こういうところがダメなんだろうなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます