第3話

 越谷さんから連絡先を交換しようと言われて困惑している陰キャがここにいた。まさか僕のメッセージアプリに母さん以外の女性が追加される日が来るとは……。


 「ねえ、聞いてる?」


 色々と考えていたら数秒固まっていたようだ。越谷さんから不審がられて声を掛けられる。ごめんごめんと謝り、ポケットからスマホを取り出す。なんかスマホいつもよりヌルヌルするな……。いや、自分の手汗か……。何とかメッセージアプリを立ち上げQRコードを表示させて越谷さんに向ける。


 「ふんふん、春日部のはそれね。じゃあ、友達申請しておくから承認しておいてね」


 ピコンという通知音がして自分のスマホを見ると越谷瑠衣から友達追加という通知が来ている。夢みたいだ。僕は思わず呆けてしまう。


 「てか、早く承認してよ」


 「あ、ごめん!!」


 慌てて承認ボタンを押す。アプリの数少ない友達欄に一人追加された。


 「たまに連絡するね~」


 「ウ、ウス……」


 動揺して、某テニス漫画の無口キャラみたいになってしまった。しばらくスマホを眺めてボケっとしていたら次の授業の先生が来て、慌ててスマホをポケットにしまう。


 その後、六時限目、終礼と終わり放課後となった。僕は少し急ぎ目に鞄に教科書などを詰め込む。


 「あれ、春日部何か急いでんの」


 慌てて鞄に荷物を詰め込んでいる僕に疑問を持ったのか越谷さんに話しかけられた。


 「え?ああ、いや、この後委員会なんだ」


 「へー、何委員なの?」


 「図書委員。放課後の図書室の受付とか色々しなきゃなんだよ」


 僕たちが通う、東南学園とうなんがくえん高校は東京都にある学校で校則で必ず部活か委員会に所属する必要がある。


 陰キャの自分が何かの部活動に入る気も起きなかったが、本好きということもあり図書委員に入った。しかし意外と図書委員が忙しく、放課後の図書室の受付や本の整理などの業務がある。まあ、受付にいる時は本読んで過ごしていいしそこまで苦でもないのだが。


 「げー、大変そう」


 「まあ、本読めたりしてればそんなに、あ、やば、じゃあ僕は行くよ」


 鞄を持ってドアに向かおうとした瞬間、越谷さんはこちらに手を振る。


 「春日部、じゃあね~」

 

 僕は女子に手を振られたが、振り返す勇気がないため軽い会釈をして教室を出た。

 



 僕は早歩きで図書室に向かう。何でこんなに急いでいるかというと同じ図書委員の女の子が何時からいるのだろうかと疑問に思うほど先に来て仕事をしているからだ。別に後から来て何かを言われる訳ではないが、先に業務を始められると何故か急かされた気分になる。まあ、間違いなく気にしすぎである。


 そんな事を考えていると図書室前に着いた。ドアを開けると予想通り図書委員の女の子が本を持って書棚に並べていた。


 「川口かわぐちさん、ごめん。先にやってもらっちゃって」


 僕は謝りながら鞄を受付に置いて慌てて川口さんの元に行く。


 「ううん、気にしないで。私が勝手にやっているだけだから」


 彼女は川口亜紀かわぐち あき、彼女は僕と同じ一年生だが隣の1-Bの生徒である。同じ図書委員で働いている為、少しだけ話しをしたりしている。


 「あれっ、今日図書室人が少ないね」


 僕は図書室を見渡して話しかける。ここの所、とある理由から異常に図書室に人が多かったが今日はそこまでの人がいない。


 「ああ、私が言ったの。図書室に用がない人は来ないでって注意したから」


 「ああ、なるほど……」


 ここの所、図書室に人が多かった理由はずばりこの川口さんである。どういう事かというと、川口さんはかなりの美人で一年生にして校内で知らない人がいないほどの有名人らしい。その為、男子生徒がこぞって用もないのに図書室に来て川口さんを眺めていたり、もしくは話しかけに来ていた。川口さん凄すぎるだろ。


 当然のことながら川口さんは仕事に集中できないと迷惑していた。その為、自ら男子生徒に来るなと注意したのだろう。僕にはない胆力である。

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