第2話
越谷さんからお礼を言われた僕は「ああ、いえ」とまともな返事が出来たとは言い難かった。その後、授業は無事終わり休み時間になった。
「あ、あの」
越谷さんが誰かに声をかけているみたいだ。僕はあまり気にせず机の中に入れてあった小説を取り出した。
「ね、ねえ!!」
越谷さんがそう言うと僕の左肩に手が置かれた。急な出来事にビックリして手に持っていた小説がぴょーんと宙に舞った。僕は慌てて小説をキャッチしてふーっとため息をつく。そうして越谷さんの方を向く。
「ご、ごめん、ビックリさせて」
越谷さんが申し訳なさそうに手を合わせて謝っている。僕は大丈夫と声をかける。内心は誰かに話しかけられることがないためまだ心臓がバクバク鳴っている。僕になんのようだろうか。
「ど、どうしたの?」
「さっき春日部、教科書貸して助けてくれたじゃん。お礼を言おうと思って」
「ああ、そんなの気にしなくていいのに」
初めて越谷さんと話すが、僕のような空気の薄い奴の名前を憶えているんだなあと関心している。だが、まあこの先話す事などあんまりないんだろうなあと我ながら情けない事を考える。
「いや、まあ助かったから……、春日部が教科書忘れたら今度は私の見せてあげるよ!!」
越谷さんはニコッと笑顔を見せた。僕はその笑顔の可愛さに更にドキッとした。心臓の高鳴りに平静を装うのが大変だ。
「わ、分かったよ。その時はよろしく」
僕はそう言うと、視線を小説に戻そうとする。すると、越谷さんはあっと声をあげる。僕は慌てて首をグリンと回して越谷さんに目をやる。
「あっ、ごめん。私さ、この学校で友達居なくてさ。もし迷惑じゃなければ話相手になってよ」
「ぼ、ぼく?」
まさか、僕に声をやるだけでなく話相手になってよなどと言ってもらえると思えずビックリしてしまった。
「迷惑かな?」
「そんな事ないよ。でも僕なんかで良いの?」
「何で?」
越谷さんは可愛らしいギャルといった感じで、僕の様な陰キャとでは合わないのではないかと疑問に思ったからだが、それを口に出すとあまりに情けない気がするので言わない。
「い、いや、僕こんな感じで暗い感じだし話しても面白い事言えないよ?」
「プッ、そんなの気にしないよ~」
越谷さんはケラケラと笑っている。ここまで話していると越谷さんは見た目のイメージよりずっと相手の事を思えるし優しそうな感じがする。まあ、彼女が友達出来るまでの事だろうし、僕も丁度話相手が欲しかったところだ。
「越谷さんが良ければよろしく」
「うん、よろしく~」
今度こそ話が終わったかと思って、再び小説に目をやろうとする。すると、越谷さんはえっと声をあげる。僕は慌てて首をグリンと回して越谷さんに目をやる。そろそろ首がグキッていいそうだ。
「私と話すの、やっぱり迷惑だった?」
「そ、そんな事はございませぬ!!」
釈明するためにテンパりすぎて武士みたいな話し方になってしまった。その様子を見た越谷さんはプッと吹いて笑っている。
「フフッ、春日部面白いじゃん」
僕は越谷さんの笑顔を見てやっぱり可愛いなあと思った。そんな事を考えていると越谷さんはポケットからスマホを取り出した。
「ねえ、春日部、連絡先交換しようよ」
「へっ?」
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