ハイジくんとの出会いと…… (ナナ)
「ナナー? 借りてた制服返すわね」
「うん…… ところでお姉ちゃん、どうして制服が必要だったの?」
「ちょっとねー、ナナももう少し大人になったら分かるわよ」
六歳年上のお姉ちゃんはいつも遊び歩いていて、そのたびに違う男の人と一緒にいる。
「ナナー? 今日はお友達と遊んで来るから、冷蔵庫にあるおかずでご飯を食べてねー?」
「はーい、いってらっしゃいママ」
ママは月に一回、お友達と遊びに行くと言っては毎回朝帰りをしている。
そして、その日は必ずと言っていいほどパパは……
「今日パパはお仕事が忙しいから、絶対部屋に入って来ちゃダメだよ?」
ママがいなくなると同時に自分の部屋に籠りきりになる。
これが日常で、当たり前だと思っていた。
あの時までは……
昔から地味で社交的ではなかった私は、高校に入学してもあまり友達が出来なかった。
もちろん彼氏なんていなくて、私には無縁の話だとも思っていた。
彼氏が出来ないことをお姉ちゃんやママには心配…… というか、半分からかわれていたが、お姉ちゃんみたいに取っ替え引っ替えしたいと思わないし、別に恋愛にも興味なかったから余計なお世話だとも思っていた。
だがある日、数少ない友達と高校の図書室で調べものをしていた私は……
「うーん…… 届かないよぉ……」
本棚の一番上にあった本を取ろうとして、踏み台の上で背伸びをしていた。
「んー…… 取れた…… っ!?」
そして本を取った瞬間、バランスを崩し踏み台から落ちてしまい……
「あっ! 危な…… ぐへっ!!」
その時、偶然通りかかったハイジくんにぶつかり下敷きにしてしまった。
「あわわっ! ご、ごめんなさい…… 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ…… 大丈夫……」
「すいません! すいません!」
「あははっ、大丈夫だから…… いててっ」
「どこか痛いんですか!? 肩を貸しますから一緒に保健室に行きましょう!」
お股の所を痛めたのか、手で押さえていたので、慌てて保健室に連れて行ったのがハイジくんとの出会いだった。
普段は男の子と話すこともないし、変な目でしか見られないから進んで仲良くなろうとは思わないのに……
「失礼しまーす…… 先生、居ないですね」
「ありがとう、本当に大丈夫だから!」
「いいえ、ダメですよ! ケガしていたら大変ですから、私のせいですし」
「ほ、本当にあとは自分でなんとかするから! 早く戻らないと授業始まっちゃうよ?」
「そうですか…… もし何かあったらすぐに言って下さいね」
何故かハイジくんとは一秒でも長く一緒に居たいと思ってしまった。
もしかして一目惚れしちゃったのかな?
はぁー、すんすん…… それにしても良い匂いがするなぁ…… ずっと嗅いでいたい。
その時はそれくらいにしか思っていなかったけど、それから学校ですれ違うたびに挨拶したり、図書室で会った時は友達を含めて三人で並んで読書したりと関わりが増えて、気が付いたら私はどんどんハイジくんに惹かれていた。
「ナナ、ハイジくんのこと好きなんでしょ?」
「あぅっ! そ、そ、そんな事は……」
「きっとハイジくんもナナに気があるわよ」
「えぇっ!? わ、私なんか…… 地味だし、可愛くないし……」
「ナナ、本気で言ってる? ナナは可愛いよ、わざと地味にしてるのかって思うくらいにね! それに…… このデカいのを武器にしたらハイジくんなんてイチコロよ!」
「あぁん! ……もう!」
モミっとしないでぇっ! ……この大きいもののせいで変な男…… 例えばお姉ちゃんが連れている男みたいにいやらしい目で見てくる人に、そういう目で見られたくないから目立たないようにしてるのに…… それを武器にだなんて…… うん、どうしてもダメだったら奥の手で使ってみようかな?
でも…… そんな必要はなかった。
「ナナちゃん、好きだ! 付き合って欲しい!」
「嬉しい…… はい、よろしくお願いします」
ハイジくんは地味な私でも『好き』と言ってくれた。
そして私達は恋人同士になり、毎日連絡を夜遅くまでしたり、デートをしたり……
時々胸元に目線が来るけど、ハイジくんはちゃんと私の目を見て話してくれるし、話していても面白いし…… やっぱり良い匂いがする。
私って匂いフェチだったのかというくらい、ハイジくんのそばにいたら匂いを嗅ぎたくなる。
それくらい、ハイジくんのことが好きだった。
だけど三回目のデートを終え、帰宅した後、身体に異変が起きた。
「うぅっ!! ……はぁっ! はぁっ!」
く、苦しいっ!! 急激にお腹が痛くなって、喉が渇いてきた!
「マ…… ママぁ……」
「ナナ!? ……こ、これは!! ちょっとムツミ! ゴローちゃんに連絡!!」
「あちゃー! ついにナナも来たかぁー…… はーい、すぐ連絡するねー」
例えるなら『お腹が減り過ぎて気持ち悪い』それを数十倍痛く、苦しくしたような不調の中、ママやお姉ちゃんは救急車を呼ぶわけでもなく、ただ苦しんでいる私を見つめて励ますだけ…… こんなに辛いのに。
でも、その理由はすぐに分かった。
「あー、ナナちゃんもついに来た? うちの家族の中では遅いから何も起こらないかと思ってたわ」
お姉ちゃんに呼ばれて家に来た、近所に住む親戚のゴローさんが、手に持っていた哺乳瓶みたいな変な物を私の口の前に差し出してきた。
「とりあえずこれを飲むんだ」
何が入ってるか分からないのに嫌だよぉ…… それに哺乳瓶だなんて、赤ちゃんじゃないんだから…… でもぉ…… すっごく良い匂いがするぅ…… ハイジくんほどじゃないけど、それに近いような……
……でも、この哺乳瓶の飲み口、ちょっと太くて大きくない? それに先端がキノコの笠のように一回り大きくなってるし、飲みづらいよぉ。
「ナナ、早く飲みなさい、楽になるわよ」
「そうそう、それに飲み口のやつも咥えたらしっくりくるから」
ママ…… お姉ちゃん…… うぅっ……
あむぅっ…… んぐっ、ちゅぱちゅぱ……
みんな…… 飲んでいるところをそんなに見つめないで! ……うっ! 甘いけどちょっと苦くてドロドロしてるから飲み込みづらい。
ああ…… 苦しさが和らいでいく…… しかも美味しく感じてきたぁ……
そして気が付けば夢中で得体の知れない飲み物を飲み干した私は、そのまま意識を……
…………
…………
『今日の映画、面白かったね! 『ミッチーとの遭遇』』
『ああ、三人目のミッチーが出てきた時はヒヤヒヤしたよ!』
『結局ヒロインは二人目のミッチーと結ばれて幸せになって終わりだったのかな?』
『ハッキリしない終わり方だったけど、一人目のミッチーを選んだのかもしれないぞ?』
…………
ハイジくんとのデートの思い出……
楽しかったなぁ……
…………
「うぅん…… あれ? 私……」
「ナナ、やっと起きたのね」
「グッスリ寝てたわね、さては相当溜め込んでたんじゃないの? ふふふっ」
二人とも…… あっ、私…… 急にお腹が痛くなって、苦しく…… あれっ? 痛く…… ない……!
「さてと…… ナナ、あなたにも私達の家系の事を教えなきゃいけない時が来たから、少しだけ話を聞いてくれる?」
ママ? ……真剣な顔をしてるけど、一体何の話?
「実はね…… 私達のご先祖さまは…… 宇宙人なの」
…………はっ?
「しかも、他の生物に寄生したりして血液とか体液を奪うタイプの宇宙人だったのよ」
…………ひっ?
「今その血はだいぶ薄まって地球人と変わらないんだけど、我が家の…… 特に女性達は年頃になると、無性に生物の体液を欲してしまう発作のようなことが起きてしまうのよ」
…………ふぇっ?
「だから定期的に…… 特に人の体液を飲まないと最悪死んでしまうの」
…………へほーーー!?!?
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