突撃! 闇堕ちベーちゃん!

 えっ? あっ…… ナ、ナナちゃんとチャラ男が…… やっぱりそういう関係だったのか!


 こうして自分の目でその姿をハッキリと見てしまうと……


 はっ!! これが巷で噂の『脳を破壊される』というやつか!! ぐわぁぁぁぁー!!


 …………


「……ハッちゃん?」


 …………


「ハッちゃんってば!」


 べ、ベーちゃん…… 危なかった、一瞬だが意識が宇宙へと飛んで行きそうになった。

 ……まっ、さっきまで宇宙にいたんだけどね!


「あの娘がハッちゃんの心をキャトった女で合ってるの?」


「……へっ? あ、ああ」


 心をキャトるというのはイマイチ…… というか全く意味が分からないが、俺とお付き合いしていたの彼女、ナナちゃんで間違いない。


「ふーん…… そう……」


「ベーちゃん?」


 ちょ、ちょっとベーちゃん! その手に持っている筒状の物は何かな? 

 筒がプルプル震えてるのが見えるよ? 寒いの? 夏だけど。


「あの娘がね…… ふーん……」


 筒の先端が赤く光って見えるのは気のせい?

 いや! 赤い光がどんどん長くなって…… 一メートルくらいの長さに伸びたよ! その筒、どういう仕組みになってるの!?


「…………ふんっ!!」


 ぎゃあぁぁぁぁー!! な、何やってんのー!!!


 ベーちゃんは持っていた赤い光が伸びている筒を、剣か何かで斬るような動きでベランダの窓に向かって振ると、触れてもいないのにナナちゃんちのベランダの窓ガラスが割れてしまった!


「ひぇっ!! ガ、ガラスが急に割れたぞ!?」


「きゃあぁぁぁーっ!!」


「……こぉの! メスブタ泥棒猫ーーー!!!」


 ベーちゃぁぁぁん!! 話し合うだけって言ったのにーー!!

 ブタなの? 猫なの? どっちなのぉぉぉー!!


「ナ、ナナ! ナナー! 何が起こったんだ!?」


「誰もいないのに声が聞こえるよ!? ま、まさか……」


「ポルターガイストか!?」


「行儀の悪いバイクの窃盗犯かな!?」


「「……えっ?」」


 ナナちゃん、やっぱり天然…… というか、抜けているというか…… いや、今はそんな事どうでもいい……


 ベーちゃん!! 人の家のガラスを割るなんて! 悪者のやることじゃないか! 


「……ハッちゃん、ダジャレ?」


 違うわ!! ……ああ、もう! スーツのステルス機能で透明になってるのに、ベーちゃんが暴走するから話がややこしくなってるぅぅっ!


「ナナ、とにかく早く逃げないと!」


「お、お化けには掃除機が良いんだよね!?」


 ナナちゃん…… その情報はどこで手に入れたんだ? 多分素人には無理だと思うよ? 


「……あっ、ステルス機能解除するの忘れてた! もう、ウチのバカ! バカバカ!」


 最近同じようなセリフを聞いたな、再放送かな? 


 そしてベーちゃんが首元のスイッチを押して姿を現すと……


「うわぁっ!! いきなり何か出てきた! だ、誰だオマエは!? 怪しい仮面を被りやがって!」


「…………」


 チャラ男がビビって腰を抜かしたぞ! ……そりゃビビるよな、怪しい仮面の奴がいきなり目の前に現れるんだもん。

 ……俺もお前の気持ちが良く分かるよ。


「は、わわぁ…… へ、変態仮面さんだぁ……」


 ナナちゃん的には仮面といえば『変態』が出てくるのか…… ナナちゃんも腰を抜かして…… おっと、足をM字におっぴろげているから、ハイジおったまげです、はい…… 黒か。


 ギャッ!! べ、べ、ベーちゃん!? その赤い光をこっちに向けないで! すっごく熱いから!


「そんな汚いものを見たらダメ! 目玉をキャトっちゃうよ?」


 ひぃぃぃっ! 今のベーちゃんなら本気でやりそうで恐いよぉ…… 本気と書いて『マジ』と読むやつだよ、これぇ……


「あなたがナナちゃんで良いのよね?」


「ど、どうして私の名前を知ってるの!?」


「さて、どうしてかしらね? ……どうせすぐに思い出さなくなるから大丈夫だよ!」


 そしてベーちゃんは赤い光の出る筒の光の先端をナナちゃんの頭に向けて…… 突き刺そうとしている!


 や、やめるんだベーちゃん! あと『赤い熱々な光の出る筒』って長くて言いづらいよ!


「その声とほのかに香るこの匂いは…… もしかしてハイジくん?」


 ナナちゃん!? 俺もさっきからいたんですけど! ……って、俺もステルス機能を解除するの忘れてたわ、俺のバカ! バカバカ!


「へへっ、ウチとお揃いだね!」


 何でそんなに嬉しそうなんだよ……


「とりあえずベーちゃん、一旦落ち着こう」


 そして透明化を解いた俺は、ナナちゃんと顔を合わせるのが少し気まずかったけど、このままじゃ収拾がつかなくなると思い、四人で少し話し合わないかと提案した。



 ◇



 話し合う前にベーちゃんに割れたガラスを片付けさせようとしたのだが、またスマホのような怪しげな機械をちょちょいと操作すると、一瞬で割れたガラスが逆再生するように元通りとなってしまった。


「へへっ、凄いでしょ? 本当は宇宙船が傷付いた時の応急処置に使える機能なんだけど、応用すればこんな事も出来るんだよ!」


 さすが宇宙人…… 何でもありだな。


 そして俺とベーちゃん、ナナちゃんとチャラ男と並んで座り、テーブルを挟んで向かい合っての話し合いが始まった。


「ハ、ハイジくん……」


「ナナちゃん、急に…… しかもガラスを割って現れてゴメン」


「それは直してくれたからいいんだけど…… その…… 隣にいる人は……」


「あ、ああ、この人は俺の幼なじ……」


 するとベーちゃんがいきなり俺の腕にしがみつき、まるでナナちゃんに見せつけるように……


「ウチはハッちゃんの幼馴染で許嫁…… いや、もうお嫁さんと言っても過言はない存在のヴィクトリアよ!」


 ベーちゃん!? サラッと嘘つかないでくれよ! ……熱っ!! わ、分かりました! 黙ってますから赤い光で背中をツンツンしないで! ナナちゃん達からは見えてないから、俺がビクンビクンしている姿を不思議そうに見てるよ!?


「お、お嫁さん!? そ、そんなぁ……」


「へへっ、だからあなたは諦めてね! ……まあ浮気するくらいだし、ハッちゃんのことはどうでもいいんだよね? ねっ?」


 ……うっ!! ベーちゃん、破壊された脳を更に破壊するようなことを平気で言わないで!


「浮気!? そんな…… 私は浮気なんてしてないよ!!」


 ……ナナちゃん?


「ふーん、でもさっきチュパチュパしてたじゃない、その趣味が悪い髪の男と」


「ち、違うの、違うの! これは違うの!!」


 はい、テンプレのような回答入りましたー! テンプレ一丁! まいどあり!


「……趣味が悪いだと! ふざけるな!」


「……趣味が悪いのは当たってるけど、あなたが思っているような関係じゃないの!」


「えっ…… 俺の髪って趣味悪いの? ……えっ?」


「「…………」」


 女性陣が黙っちゃった…… ぷー! クスクス。


「じゃあどういう関係なのよ! ……関係ありなさいよ!! 面倒なことになるでしょ!」


 ベーちゃん、心の声がだだ漏れだよ?


「うぅっ…… ごめんなさい、ハイジくん…… 実は…… 実は私……」


 ナナちゃん、その前に気になることがあるんだけど……


 そのテーブルに置いてある、哺乳瓶みたいなものは何? ちょっと飲み口の所が変わっていて、普通のよりも長くて太くて…… キノコみたいな形をしているんですけど。


「私の…… 私のご先祖さまは宇宙人なの!!」


 …………


 …………はにゃ?


 ……そのカミングアウト、今必要?

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