大好きなハッちゃんとの思い出 (ヴィクトリア)

 ウチの幼馴染、ハッちゃんとの出会いはあまり覚えていない。

 だって物心つく頃にはもうハッちゃんとは仲良しだったから。


 家がお隣さんで親同士も仲が良く、ウチとハッちゃんが赤ん坊の頃から家族ぐるみの付き合いがあり、ハッちゃんとは兄妹みたいな関係だと思っていた。


 あの頃までは……



「地底人がきたぞー! にげろー!」


「やーい! おまえんち、アダムスキー!」


「うぅっ…… うぇーん!!」


 幼稚園に通い始めたウチは、珍しい肌の色と髪の色の事を同じ幼稚園の子にバカにされていた。


 その日もいじめっこに酷いことを言われて泣いていると……


「こらぁぁぁー!! ベーちゃんをいじめるなー!! ……おまえたちも地底人にしてやろうかー!!」


「うわぁぁぁー!! お、おばけー!!」


「ようかい人間だー!!」


 必ずと言っていいほど毎回ウチを助けてくれたのはハッちゃんだった。


「ベーちゃん、大丈夫か?」


「うん…… ありがとうハッちゃ…… ひっ!! ハ、ハッちゃん!? どうしたのその顔……」


 そしてその時助けてくれたハッちゃんの顔は今でも忘れない…… だって…… 


「ベーちゃんがバカにされてたからさ、俺も同じ色にしてみた!」


 ウチの肌の色に似せるために、水色の絵の具か何かを顔に塗りたくったハッちゃんが助けに来てくれたんだもん。


「ちょっと綺麗な肌と髪の毛だからってアイツらバカにしやがって! ベーちゃんはベーちゃんなんだから気にするなよ?」


 絵の具でベタベタになった顔で笑っているハッちゃんの顔…… 面白くて涙も止まっちゃったな……


 その後、ウチも含めみんなで先生に怒られて、でもそのおかげでみんなと仲良くなれて……


「ごちそうさまー! いえーい! いっちばーん!」


「外に遊びにいこー!」


「ちょ待てよ! ベーちゃん! ほら、早く遊びに行くぞ!」


 いつもウチを引っ張ってくれるハッちゃんを…… ウチはいつの間にか異性として好きになっていた。


 小学生になってもいつも一緒に遊んで、夏休みにはウチとハッちゃんの家族みんなでキャンプに行ったり、冬休みには温泉旅行やスキーにも行ったりした。


 そんなハッちゃんのいる楽しい日々がずっと続くと思っていたが、小学校五年生になったある日……


「ヴィクトリア…… 今度パパが転勤することになったから引っ越ししなきゃいけなくなったの」


 突然、ハッちゃんとの別れが訪れた。


「ヤダよ! ウチ、ハッちゃんと離れ離れになりたくない!!」


 かなり遠くに引っ越さなきゃいけなかったらしく、ハッちゃんとはもう会えないかもと言われたウチは、泣きわめき駄々をこねて抵抗したけど結局ダメで、そうしている間にハッちゃんとの別れの日がどんどん近付いていき……


「ベーちゃん! また明日!! 今度こそUFO見つけような!」


「うん…… またね」


 最後の日までハッちゃんには引っ越ししてお別れになることを言えなかった。


 そして引っ越し当日……


「ママ、引っ越しの準備はしなくていいの? ……もしかして引っ越しは中止!?」


 普通なら引っ越しの荷物をまとめたり、引っ越し屋さんを手配したりするものだと思っていたのに、パパもママもいつまで経っても引っ越しの準備をする気配がなくて、思わずウチはママに聞いてしまった。


 引っ越しが中止になってくれたらいいな、と思って聞いたウチだったが、ママから返ってきた答えは意外なものだった。


「家ごと引っ越すから問題ないわよー、ほら早くご飯食べちゃいなさい、パパが帰って来たら引っ越しよ」


「……えっ? い、家ごとってどういうこと?」


「すぐに分かるから心配しないの、洗い物もしなきゃいけないんだから早くしなさい」


「う、うん……」


 そしてパパが帰って来ると、パパとママは着替えを始め……


「ヴィクトリアも危ないからこれを着なさい」


 ウチにもクソダサピチピチ全身タイツの服を渡され、それを着させられて……


「じゃあ出発するから首の右側にあるスイッチも押してね」


 言われるがままスイッチを押してみると…… 何かに顔を覆われてしまった!


「……シュコッ!? シュ…… シュココッ? (えっ!? こ…… これ何!?)」


「シュコシュコ…… シュコ! シュッシュコォォ (仮面よ…… ふふっ! 似合ってるわ)」


 ママ、何を言ってるか分からないよぉ…… ウチもだけど。


 そしてウチが混乱しているうちに家が揺れ始めて……


「シュコ…… シュコ、シュッココ、シュコォォー! (じゃあ…… パパ、出発進行ー!)」


「シュコォォー!? シュ、シュココ、シュッシュコ…… (ひぃぃー!? い、家が、飛んでる……)」


 ウチら家族は誰にも気付かれないように宇宙へと飛び立った。


 そして引っ越し先に向かう間にママから色々話を聞かされた。


 実はパパとママは宇宙人で、パパの仕事の都合で地球にやって来たらしい。


 パパの仕事は地球の調査をすることで、あちこちで潜入捜査していたみたいだ。


 だから仕事がコロコロ変わっていたんだ…… てっきり仕事が長続きしないダメダメなパパかと思っていた。


 そんなパパは今、宇宙船を運転しながら、大好きな地球の缶コーヒーを飲んでいる。


 あと、宇宙船をそのまま擬態させて家にしていたらしく、だから家まるごと引っ越すことができたみたい。


 ……幼稚園の友達にも『アダムスキー』と言われていたし、擬態できてなかったと思うんだけど、そこらへんは今更どうでもいいか。


 そしてそうこうしているうちにウチが生まれ、地球の生活にも馴染んできていた頃にパパが再び転勤することになり、パパとママの故郷がある星に帰ることになった。


 で、潜入捜査がバレないように夜中にこっそりと飛び立ち、今はその故郷である星に向かっている途中みたいだ。


「……地底人じゃなかったけど、地球人でもなかったんだ…… せっかくハッちゃんが庇ってくれたのに、ウチが嘘つきだったんだ……」


 ごめんね、ごめんねハッちゃん……


 騙していたみたいでハッちゃんへの後ろめたさもあり、この想いは一生胸にしまっておこうと決めたウチだったけど……


 成長する中で色々な人と関わることがあったけど、やっぱりハッちゃん以上に魅力のある素敵な異性は現れなかった。

 N22星での生活に馴染んでも、ハッちゃんへの想いは断ち切れずにいたウチは……


 一生懸命勉強をして、頑張ってバイトをしてイェーンを貯めて……


 お見合いを勧めてくるおばちゃんに、彼氏がいると嘘をついてまで急いでハッちゃんに会いに来たのに……



 …………

 …………



「ハッちゃん…… 彼女がいたの? ねぇ、正直に答えて? ねぇ…… ねぇ……」


 ハッちゃんはウチの事なんか忘れて…… いや、ウチの記憶を失うくらい、その彼女メスブタに心を奪われたのね……


 はっ! これが今N22星で流行っている『心をキャトられる』ってこと!?


 身体はちょちょいとアブダクションすれば簡単にキャトれるかもしれないけど、ウチとハッちゃんの大切な思い出が詰まっている大切な心をキャトるなんて…… 許せない!! 


 そんな彼女キャトりおんななんて……


「へへへっ…… ハッちゃん、その女の所に案内して? ねぇ、いいでしょ? ねぇってば! ハッちゃん? 早く!」


「ベ、ベーちゃん…… 怖いって…… 落ち着いて! ねっ? ねっ?」


 …………


「ハッちゃん? へへへっ……」


「ひっ! あ、あ、案内するから! その顔やめて!」



 ウチのハッちゃんを奪った女…… 待ってなさい!


 キャトられたらキャトり返す……

 倍プッシュよ!!

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