見せてもらおうかなぁ、UFOの性能を

「シュコォォ…… シュコ!」


 ……ベーちゃん、何言ってるか分かんないよ?


「シュコォォ…… シュココッ!?」


 ……これじゃあ俺も何を言ってるか分からないじゃないか!! この仮面、うっとおしいな!


「……ハッちゃん、何か言った?」


 あっ、ベーちゃんの仮面の口元だけがスーツの襟に収納された! そんな事出来るなら最初からしてくれよ! 


「首元にあるスイッチを二回押すと口だけを出せるようになるよ」


 それを早く言え! このままだと二人でシュコシュコ言いながら宇宙をドライブするところだったぞ!?


「おぉっ、本当だ…… これで普通に喋れるな」


「へへっ、ごめんね? 普通にドライブするだけなら口元のマスクは必要ないんだけど、星間高速移動する時には危険だからマスクが必要なんだ」


「……星間高速移動?」


「うん、宇宙は広いからねー、地球とN22星の間も普通に飛行していたら片道何十年かかるか分からないんだ! で、宇宙のあちこちに設置されているワープポイントを使いながら移動するのが星間高速移動って言って、凄く時間短縮出来るんだけど、その代わりにワープ中はマスクをしていないと呼吸が苦しくなって最悪窒息して死んじゃう事もあるんだよ」


 ワープ…… 映画とかアニメだけの話かと思っていたのに、実際にあるんだ……


「マスクさえしていれば大丈夫だし、まずマスクをしていないとワープポイントの入口で管理人に止められちゃうんだけどね、 しかもマスク不着用は一回で免停になって再講習しなくちゃいけなくなる違反になるからハッちゃんも気をつけてね!」


 ……免停とかあるんだ、車の免許みたいだな。

 いや、俺が宇宙船を運転することはないからその情報はいらないぞ。


「じゃあ発進するよー、安全運転するから安心してね」


「お、おう……」


 うわぁ、緊張するぅ…… 夢を見ているみたいだけど、これ…… 現実なのね。


 そしてベーちゃんが運転席に座り何かを握ると…… 宇宙船がゆっくりと進み始めた。


 ……うぉぉっ!! す、すげぇー!!


 乗り心地は車とあまり変わらない感覚だが、見える景色が違い過ぎて不思議な気分だ。


 左側にはさっきからずっと見えている地球、そして正面や右側は暗闇の中でキラキラと光る綺麗な星が沢山見えている。

 

 時々小さな光の玉が宇宙船に向かって飛んで来たり、目の前を横切って行ったりと、まるで何かのアトラクションに乗っているようで…… うわっ!! 『ブー! ブー!』と警報のような音が鳴ってるけど何の音だ!?


「これは『自動回避システム』が作動している音だよ! 地球の周りはゴミが多いからねー」


 そ、そうなんだ…… ちょっとドキドキする音だからやめて欲しい…… ひぃっ! 今度は何だ!? 『キュピーン!』って音がしたぞ! ゆ、揺れるぅっ!


「今のはぶつかりそうになった障害物を避けた音だよ! 大丈夫、当たらなければなんてことないから!」


 ……仮面を被っているからか、妙に安心感があるな。


「へへっ、アダムスキータイプの新型『ぺオング』の性能は凄いんだよ! 旧型よりも回避性能が三倍なんだから」


 ぺ…… 何、そのギリギリアウトっぽい名前…… 『UFO』だから?


「ハッちゃん見て見て! あっちに見えるのは彗星だよ! パーっと光って綺麗だね!」


 お、おう…… たしかに綺麗だけど…… 色々気になる事がありすぎて俺は混乱中なんだ、特に一番気になってるのが……


「ベーちゃん、宇宙船ってそれで操縦するの?」


「えっ? そうだけど……」


 ベーちゃんが手に持っているのは…… ゲームのコントローラーみたいなもので、しかも分かりやすく言うと『A』と『B』がメインボタンのやつ! 船は最新型とか言ってたのに、いつの時代の物だよ!! 


「簡単操作で人気なんだよ? これがマニュアル船だと、コマンド入力で回避しないといけないし大変なんだから」


 コマンド入力? しかもベーちゃんがジェスチャーしているのを見る限り、マニュアル船の操作ってアケコンっぽいのでやってそうだな! だってスティックグリグリしちゃってるもん! 龍でも昇らせるんか!?


 ガッカリだよ、UFO…… 船体には未知の技術がたっぷり詰まってるのに、操作だけはクラシックだなんて……


「へへっ、楽しいね! いつかハッちゃんと一緒にドライブするためって色々頑張って良かった……」


 ……と思っても、ベーちゃんが笑顔で楽しそうに運転しているから、絶対口には出さないけどね。


「それでベーちゃん、地球に来た本当の目的は? 俺に会いたいから来ただけじゃないんだろ?」


「…………」


 ベーちゃんは久しぶりの再会だからといって、強引にUFOで連れ去るような子ではないはずだ。

 きっと何か理由があるはず……


「……ハッちゃん、怒らないで聞いてね?」


「ああ、俺とベーちゃんの仲じゃないか、大丈夫だよ」


「本当に? 絶対怒らない?」


「大丈夫だ」


「本当の本当に? 絶対怒らないでよ?」


「うん」


「嘘ついたら卵百個飲んでもらうからね?」


「だから大丈夫だって!」


 ……いかんいかん! あまりにしつこいからちょっと声が大きくなってしまった。

 めっ! だぞ、俺。

 ……サラッと聞き流したけど、嘘ついたら一体何の卵を飲ませるつもりなのかな?


「あのね…… そのね…… ウチ……」


「うん……」


「ウチ…… 親戚のおばちゃんに『彼氏』がいるって言っちゃったの!!」


「そうか…… んっ?」


「いつまで経っても彼氏が出来ないウチに、おばちゃんが『ヴィクトリアちゃんに良い人を紹介してあげる』とか言い出したから、思わずウチが『彼氏いるもん!』って言っちゃって…… そしたら家族みんなに『紹介しろ!』って言われて…… うぅっ、ごめんね、ごめんね!」


 はっ? えっ? ……つまり彼氏のフリをさせるために俺をわざわざアブったのか?


「……どうせ彼氏役を頼むならハッちゃんにしてもらいたかったし、その間に既成事実を作っちゃえば…… へへっ、ずっと一緒にいられるもんね…… ゴニョゴニョ……」


「何をゴニョゴニョ言ってるだー!! コラッ! ベーちゃん! とんでもない事に巻き込みやがって!」


「怒らないって言ったのにー! あぁっ! ごめんね! ごめんね!!」


 急にラブコメにありそうな展開にしやがって! お互いに変な仮面を被ってるんだぞ!? 状況を考えろ!


「……しかも彼女に振られたばかりなのに」


「……えっ? かの…… じょ? ハッちゃん…… それ、どういうこと?」


「……ひぃっ!!」


 あ、あれ? 一瞬無重力にならなかった? タマがヒュンってしたけど……


「ハッちゃん、詳しく教えてもらえるかな? かな?」


「ベ、ベーちゃん! 操縦! 手が離れてるよ!」


「へへっ、へへへっ……」


 コントローラーみたいなやつから手を離し、笑いながらジーッと見つめてくる仮面のベーちゃんを見て……


 俺は色んな意味でおしっこをチビりそうなくらいの恐怖に襲われた。

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