第24話 獣の森・23 暗闇での対峙
『――報告する。体高、推定二メートル。人型。高い膂力で相手を叩き潰すタイプと推測する。それでいて動きも遅くはない。光に弱い可能性あり。ただし確定では、』
「ちょっと、待ってください」
レムナスは魔結晶の向こうから聞こえるハルトマンの言葉を遮る。既に「処置室」とプレートの付いた扉を出、炎に照らされた廊下に立っている。
「人型とは、どういうことですか?」
『直立二足歩行が可能で、腕を自在に動かすことができる体型ってことだ』
「それは分かっています。そうではなく……」
レムナスは額に手を当て、ため息を吐く。
地下に作られた合成獣の実験施設に人間の気配はなく、代わりに人型の敵性存在が潜んでいる。廃棄された、または見棄てられたと見られる施設に合成獣が残っていることは予想していたが、人型とは完全に予想から外れている。
「……生き残りの研究員、ということですか?」
『違うな。間違いなく実験動物だぜ、あれは』
合成獣の実験に否定的で、「実験動物」という言葉もあまり使おうとはしないハルトマンにしては、やけにはっきりと言い切った。その様子にレムナスは違和感を抱く。
「ハルトマン――」
問い質そうと口を開くが、激しい破壊音と衝撃に閉口する。今までより明らかに音が大きい。隣だ、と魔結晶から声が飛ぶ。レムナスは服の内側からナイフを抜き、「処置室」の扉を勢いよく押し開けて中に舞い戻った。室内は相変わらず闇に覆われているが、扉を開け放ったままにしているおかげで、砂埃の動きが見える。
――いる。
そう確信し、レムナスは炎の魔結晶が嵌め込まれたナイフへ魔力を流し、部屋の奥へ向けて撃つ。魔力に反応して炎を纏った刃は、中の家具か壁に刺さり、松明の代わりとなって辺りを照らす。柔らかな炎が風を受けて揺らめくと、暗闇から伸びてきた腕に叩き落とされた。
高い音を立ててナイフが床を滑って行く。しかし炎は消えない。おかげで、レムナスもハルトマンの言う「実験動物」の姿を知ることができた。
まず、短い毛に覆われた腕。ナイフに向かって伸びて来たのがこれだ。丸太のように太く、先端に付いた指はブルートヴルストよりも尚黒い。見たことのない動物のものを使っているようだ。ぐるぐると激しい音を立てており、ナイフへ近付くと、何度か腕を振り下ろした。ナイフを破壊しようとしているようだが、その程度で壊れたりはしない。あちらもそれに気付いたのか、咆哮と共に弾き飛ばした。炎に照らされた頭は獅子のもので、上唇に当たる部分がなく、牙が剥き出しになっている。目の周りは火傷の痕が生々しく残り、瞳は怒りと憎しみが渦巻いている。胴体の毛は黒いが、腕とは長さや質に違いがある。こちらは羆のものだろう。両方の肩口からは二本の棒を繋げたようなものが飛び出している。腕の動きに合わせて動いているが、どうも動きが鈍く、「振り回されている」と言った方が近い。
「……なるほど。確かにこれは、厄介ですね」
槍を構えるレムナスの呟きには焦りが滲んでいた。
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