第19話 獣の森・18 擬装と解錠

 地面に深く突き刺さった、親指ほどの太さの鉄棒。今は爆発によって見る影もないが、地上からおよそ一メートルの高さを中心に毛皮が何枚も重ねて巻き付けられ、更にその上を覆うように木の皮が貼られていたらしい。ただの幻影ではなく、ハルトマンが手で触れ、レムナスが槍を刺せたのはこれが原因だろう。不自然な炎の動きがなければ気づかなかったとさえ思える巧妙なカモフラージュに、ハルトマンは少なからず高揚し、口笛を吹いた。

「いいね。最高にいい隠し方だ。それに、こうまでして隠したかったってことは、これが鍵ってことだろ。分かりやすくて気に入った」

 言いながら取り出したのは、手のひらに収まる大きさの歪な球体。木と金属が組み合わさった見た目のそれを、ハルトマンは口元へ寄せ、囁く。

「『起きろ』」

 カチリ、と木と金属がぶつかる音して、球体の一部がゆっくりと持ち上がっていく。球になるように丸めてあったが、元は角の取れた長方形の木片に金属を刺したものを複数連ねたものだ。見た目で言えばムカデのそれに近い。

 球体だったものは今や完全に伸び切り、ハルトマンの手の上で、鎌首をもたげるヘビと同じ姿勢になった。顔に当たる部分には魔結晶が付いており、中では黒いもやが渦を巻いている。その渦を吹き消すように、ハルトマンは続けて言う。

「『|メルクーリ・テオドロスが孫、サグ・ハルトマンが命ずる。封印を解き、謎を明かし、見えないものを見せろ』」

 魔結晶が二度瞬き、もやが白く変化する。

〈認識――サグ・ハルトマンに相違無し。命令――受諾。魔法の解析を開始。終了まで八――七――〉

 流れ出した声はハルトマンに似ているが、それにしてはしわがれている。それもそのはず、これは祖父テオドロスの声だ。

〈魔法の解析を終了。系統タイプ――隠蔽。分類カテゴリ――幻術。試練を開始〉

 声が途切れ、ムカデの形が崩れた。ちょうど節の部分に組み合わせるツメがあり、分解と組み立てが簡単にできる構造になっている。ただし、ツメの形は一つずつ微妙に異なっており、正しい相手でないと上手くはめることができない。ハルトマンは二十を超えるパーツを一つ一つ丁寧に観察し、慣れた手つきで五分とかからずに組み上げた。数秒の間を置いて、魔結晶の色が黒に戻る。

〈確認――完成。因果律の転写を開始〉

 瞬間、ぐにゃりと視界が捻れる。――いや、この表現は正しくない。本当に捻れたのは「空間の一部」だ。二人の目には風景を描いた幕を剥がそうとしているかのように見えている。しばらくすると、幕が完全に剥がれ、隠れていたものが明らかになった。

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