第12話 獣の森・11 掃討
耳をつんざく激しい雷鳴が響き渡り、何か大きな塊が地面に叩きつけられた。黒焦げになったそれは生物であるようで、しかもまだ息があるらしい。なんとか上体を起こそうとするが、やがて力尽き、地面に倒れ伏した。その体の上に、ひらひらと鳥の羽根が舞い落ちる。一枚や二枚ではなく、何枚も。だが全身を覆い隠すには到底足りず、黒くなった体に色を添える程度だった。
その様子を見つめる者がいた。半ば開いた
風もないのにパラパラと本がめくられ、あるページで止まる。そこに書かれているのは円と直線を組み合わせた図形と、「
「『
本から炎が立ち上り、火の粉がリアノの足元で弾けて扇形に伸びて行く。それを辿るように炎が走り、線上にあった木や茂みにも引火して燃え上がった。中に隠れていたのだろう、先ほど雷霆に焼かれたのと似た生物が、炎を背負って飛び出して来た。
苦悶の声を上げるそれは、よろめきながら立ち去ろうとする。だが、リアノはわざわざ獲物を逃がすようなことはしない。新たなページを開き、
「『
ページに乗せていた手を前へ向けて振る。リアノの身長の二倍はありそうな鎖が袖口から飛び出し、ありえない軌道を描きながら火だるまになった生物へ襲いかかる。小指の半分ほどしかない太さのそれが、まるで生きているかのように動き、首から肩の下にかけて食い込むほど強く巻き付く。炎上を続ける生物はなんとか逃れようとするが、鎖が締め上げる力の方が強い。やがて鎖の下からばきりと鈍い音が聞こえて来た。それきり拘束されていた生物は沈黙し、鎖もだらりと垂れ下がった。
わざとらしく音を立てて本を閉じ、リアノはゆっくりと足を前に踏み出す。目的は鎖の回収と、もう一つ。黒焦げになった屍体とすれ違いざまに腕を伸ばし、袖の下から針を飛ばす。
「……に、じゅうさん」
気の抜けた声で何かを数える。ついでに特徴を把握するため、視線をそちらへ向ける。
猿の頭と鳥の翼、それと大蛇の下半身を持っていた生物のようだ。ただし黒焦げになっている今は、元の姿は見る影もない。辺りに飛び散っている羽は鳶のものだ。首と翼の付け根からは糸のようなものが飛び出している。
リアノは嘲笑するように鼻を鳴らし、自身の足下へ目を落とす。羊の頭に豚の胴、仔馬の足
が繋ぎ合わされた生物で、巻き付いた鎖で首があらぬ方向を向いている。体毛と血肉が燃える臭いに眉をひそめつつ、鎖の一方を引っぱる。金属の擦れ合う音を立ててリアノの袖の中に潜り込んだ。それから、やはり屍体に刺さるようにして、袖の下から針を落とした。
「にじゅう、よん」
言い終わると同時に、閉じられていた魔導書が勢いよく開いた。数枚の紙がめくれ、あるページで止まる。そこに書かれている文字は「
「
音もなく、穴が開いた。漆黒で満たされたそれが現れたのは、針の刺さった屍体の真下。すぐさま屍体は穴に吸い込まれるようにして消えた。穴の中は全てを呑み込むかのごとき漆黒で、覗き込んでも底どころか、たった今落ちたばかりの屍体すら見えない。はたしてどこに繋がっているのか、どこまで続いているのか、定かではない。リアノは穴を確認すると、同じページに手を置いたまま、先ほどとは違う言葉を口にした。
「
地面に開いていた漆黒が、瞬きの間に消え失せた。まるで、穴があったことなどなかったかのように。
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