第10話 獣の森・9 戦闘の後始末(前)
倒れ伏す三匹を前に、レムナスは細く長い息を吐いて緊張を解いた。指先を一本ずつ引っ張ってグローブを外し、合成獣の方へ足を進める。
「……団長殿。我らが騎士団長殿」
歩きながらペンダントへ話しかける。
『……レムナス、今は遠征中では? いくら君とは言え、まだ帝都に戻って来られないと思うのだが』
返ってきたのは落ち着きのある低い男性の声だ。壮年期に足を踏み入れようとする年齢に感じる声に、レムナスは吹き出すのを必死で堪える。歳を誤魔化し過ぎでしょう――とは、本人にはさすがに言えない。
「ええ……現在、サファル領とテイズ領の境にある森にいます。先ほど、困ったことがありまして」
レムナスはレインバードと『ウルフキャット』のことを、かいつまんで団長へ話す。
「そして現在、仮名……いえ、合成獣の二匹を捕縛しています。研究機関へ送りますか?」
『いや……これ以上は必要ないだろう。送ってくれるか?』
簡潔な団長の命令にレムナスは頷く。
「かしこまりました」
言い終わらない内に、レムナスは槍を振り下ろす。狙いは二匹の、首と胴の境目。やはり糸の切れる音がして、大量の血が溢れた。これでもう、この合成獣が動くことはない。
「それでは、この合成獣による被害状況や関係がありそうな団体の情報を集めつつ、テイズ領へ向かうこととします。お忙しい中ありがとうございました、団長」
合成獣の脱走は厳しく取り締まられる。事故によるものであっても活動の凍結は避けられず、故意に逃がしたものであれば更に重い罰則が課せられる。また、農作物や住民に被害があれば、それを報告する義務がある。その調査を行うのも、帝国騎士の職務の一つだ。
『気を付けて戻るように。では、他の団員からの連絡が入ったので、私はこれで』
魔結晶の色が元に戻る。ネイビーブルーのもやを閉じ込めたガラス玉のような見た目だ。レムナスは穂先を下にして地面に槍を突き立て、合成獣の傍らに膝を着く。そして腰の後ろに帯びていた大型のナイフを抜いて魔結晶へ話しかけた。
「ハルトマン観測手。そちらの状況はどうですか?」
ナイフの背で合成獣の体表を擦る。多少粘液は剥がれたが、毛の間に入り込んでいる分までは取ることができない。粘液だけ凍らせようか、とナイフを持っていない左手を合成獣へ向けたところで、レムナスは訝しんだ。
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