応援したくない人。

エリー.ファー

応援したくない人。

 もしかしたら、私は逃げてしまうかもしれません。

 小麦粉を投げつけて下さい。


 鬱病から逃れることができました。

 もう、味方でもありません。ましてや、友達でもありません。

 とにかく、何でもない他人。

 さようなら。

 さようなら、さようなら。


 ピザを食べたい。

 でも、その前に生きていることを実感したいのです。

 駄目でしょうか。

 いや、一割で充分と言えます。


 ふさぎ込んでしまう。

 夜が来る。

 直ぐに朝が来る。

 何だっていい。

 失いたいのです。

 どうか、私のことを忘れてから、羊を生贄に捧げて下さい。

 林檎が恐いから、私を見失うのです。

 あなたのことが大好きですよ。

 本当です。

 嘘じゃない。

 残念ながら、そこに奇跡があるのです。


「こんにちは、お元気ですか」

「はい」


「こんにちは、お元気ですか」

「はい、元気です」


「こんにちは、お元気ですか」

「何をもって、元気と言えばいいのですか」


「こんにちは、お元気ですか」

「お元気って、言葉遣いが気に入らないですね」


「こんにちは、お元気ですか」

「何が、こんにちは、だ。バカ野郎。死ね、カス。ぶっ殺してやるよ、お前のことなんかな。二度と許さないからな」


「こんにちは、お元気ですか」

「また来やがったな、絶対にぶち殺してやるから、覚悟しろよ、この野郎。死ね、カス。死ね、ボケ。死ね」


「こんにちは、お元気ですか」

「どなたですか」


「こんにちは、お元気ですか」

「はい、元気です。ただ、あなたは元気には見えませんね」


「こんにちは、お元気ですか」

「えぇ。昨日までは元気でした。今日は、少し、ね」


「こんにちは、お元気ですか」

「もう二度と生きたいと思えなくなるような、苦しみを味あわせてやるよ。覚悟しろよ、このクソ野郎。絶対にぶち殺してやるからな。死ねっ、ボケェッ」


「こんにちは、お元気ですか」

「機械的な発音ですね」


「こんにちは、お元気ですか」

「はい、田中です」


「こんにちは、お元気ですか」

「はい、鈴木です」


 君、死ぬ気かい。

 ピザに命をかけるなんて馬鹿げてるよ。

 いつまでも死を感じていると、疲れてしまうよ。

 一歩が重要だ。

 このエプロンには呪いが詰まっている。

 いつまでたっても死から逃れることができない。

 それもそうだ。

 生きている、とはつまるところ、そういうことだからね。

 顔がない。

 足がない。

 虹が僕を見ている。

 僕はきっと、このピザ屋で成功するだろう。

 そんな気がする。


 鏡の中に、僕がいる。

 歌の中に、僕がいる。

 テレビの中に、僕がいる。

 でも、僕はどこにもいない。

 本当に、僕という存在は書き消えたと言える。

 さようなら。

 僕は伝統を愛している。

 チーズが好きだ。

 何もかも楽しかった。

 でも、疲れていた。

 栄光のように見えた。

 いや。

 実際、栄光でした。

 でも、もういいんです。

 疲れましたから。

 これが最後の会話になると思います。

 大丈夫です。

 どうぞ、お気になさらず。

 僕は、僕のことが。

 そうですね。

 また、別日に話しましょう。それがいいはずだ。

 僕にとっても。

 あなたにとっても。


「何か、間違えた時はどうしますか」

「謝罪します」


「何か、間違えた時はどうしますか」

「申し訳なかった、と言葉が漏れるよ。勝手にね」


「何か、間違えた時はどうしますか」

「死にたくなるね」


「何か、間違えた時はどうしますか」

「自分を苦しめるようにします。それが赦しになると信じているからです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

応援したくない人。 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ