第3話 え? 僕もヒーローになれるんですか?
謁見の間にたどり着いたが、まだ王様はいないみたいだった。
玉座の横には何人かのおじさんが、並んでいる。
この世界来てから、まだおじさんしか見てないんだけど……。
普通いるよね?魔力量が多いお姫様とかさ。高望みはしないから、もうせめておばさんでいいから居てほしい。なんか男しかいない世界に来たんじゃないかと不安になるよ。
スイナーは謁見の間に入るとそのまま玉座の横に移動し、そのおじさんの列に加わる。あれって側近とかが立つ位置だよね。あの号泣ナイスミドル偉いんだ。
道中の説明では、跪くなどの作法はいらないから、ゆるりと待てとのことだったのでリーダーくんの横にぼーっと立っている。
ほんとは話したいんだけど、ここに来るまでリーダーくんはじっと何かを考え込んでいて、話しかけられる雰囲気じゃなかった。
声を掛けたら、最悪殴られるかもしれない、ヤンキーだし。
「国王陛下のおなーりー」
そんな声が響き、初老の男性が入ってきて玉座についた。
うわ、ナイスロマンスグレー。若い頃はさぞモテたんだろうな。
「私はバンフォレスト王国国王、リヒト・バンフォレストである。まずはそなたらの名前を教えてほしい」
なんか所謂王様ってイメージと違って、喋り方が柔らかいな。話しやすそうで嬉しい。でも一人称『私』だ。リアル『余』か、リアル『朕』が聞きたかったな。
「アキラです」
「……」
――え!?こいつ王様をシカトした!?
仲間が心配なのかもしれないけど、無礼な真似しないでほしいよ!
何されるかわからないのに!
ほら、側近たちから怒りのオーラが立ち込めてるよ!
しょうがない、僕が……!
「あの、彼は『リーダーくん』です」
「『リーダーくん』……? 名前が?」
ほら!やっぱり王様もきょとんとしてるよ?
だっておかしいもん、絶対。
「『リーダーくん』なんです」
「え……?」
「『リーダーくん』なんです!!」
「……まぁよいか」
良かった。無理やり押し通せた。
王様はひとつ頷くと、話し出した。
「アキラ、リーダーくん。我々が君たちを召喚した理由についてだが――。現在、この世界は魔王が無限に生み出す魔物によって人類の生存圏が日々脅かされている。人類も魔物と懸命に戦っているが、根本的には魔王を倒さなければ、ジリ貧だ。物量で負ける。なんせ向こうは無限の戦力を持っているのだからな」
あ、これもしかしなくてもさ、
「僕たちにその魔王と戦えってことですか?」
「端的に言うとその通りだ」
王様は苦々しい顔で認め、続けた。
「申し訳ないとは思っている。君たちからすれば、いきなり拉致されて戦いに放り込まれるのだからな。生活においてはできる限り要望に応えるし、この国でできる限りの最上級の優遇も約束しよう。それに魔王を倒せば、結果的に君たちは元の世界に帰ることができる。だから――、私たちを助けてくれないか?」
そう言って王様は頭を下げた。周りの臣下が息をのむのが見えた。
しかし誰も頭を下げるべきでないと諫めないのは、本当に僕たちに世界の命運がかかっているからなんだろう。
でも、そうはいっても確認しなきゃいけないことがある。
「なんで魔王を倒したら、僕たちは元の世界に帰れるんですか?」
「うむ。元々召喚用・送還用魔法陣は対になって存在している。魔王の拠点は海を渡った西のアスタリア大陸にあるのだが、送還用魔法陣がそこにあるのだ。アスタリア大陸はすでに強力な魔物によって蹂躙されている。魔王を倒し、魔物を排除すれば送還用の魔法陣にたどり着けるというわけだ」
なるほど……。
理屈はわかるけどすごいマッチポンプだよね。
「僕、ただの学生なんですけど」
正確には引きこもりだけどね。そして学生だろうが引きこもりだろうが、魔物とは戦えないよ。
「我々も無策で君たちを頼るわけではないのだ。スイナー、ここからは君が説明を頼む」
彼は王様に頭を下げると僕たちに向き直り、口を開いた。
「こちらの世界には『スキル』というものがある。万人に扱える魔法を凌駕する特殊な能力。それが『スキル』だ」
この世界はみんなが魔法を使えるのか!
「とはいえ、『スキル』の発現率は0.1%程。その上戦闘に役立つスキルとなると歴史上でも数えるほどしか確認されていない。だから人類は、剣と魔法で魔物と戦っているのだ」
えー、じゃあ僕にスキルがある確率もほぼないじゃん。
スイナ―は息を吸い、話を続ける。
「しかし、異世界からの転移者は強力無比な『スキル』を確実に持っているのだ!」
「――ッ! じゃあ僕も!!」
「そうだ! 君は……ヒーローになれる!」
僕はこの言葉が欲しかったんだ――!
いやいや、スイナーが偶然にも同じようなセリフを言うから、同じようなモノローグ入れちゃったよ。危ないところだよ。
なんにせよ話の流れが「ファイナル・クエスト」の導入と似ている……!王様から世界の命運を託された最強の転移者!
正直テンションが上がってきちゃったよ。学校に行くという冒険じゃなくて、アラン達のような本当の冒険が目の前に広がっているんだからね。しかもここに永住しなくてもいいらしいし。やっぱり母さんに心配はかけたくないからね。
「ああ、やばい……。やばすぎる……」
あれ、ずっと喋らなかったリーダーくんがうずくまって頭を抱えているぞ。
イケメンが狼狽してるのを見るのは面白いね。
「ここにいない転移者にも『スキル』が発現してしまっているんだな!?」
脂汗をかきながら、リーダーくんはスイナーに問う。
「ああ! ほかの4人にも発現しているはずだ!」
「そんなぁぁぁぁぁ……! すぐに4人を探し出すんだぁぁ! あいつらはその力を使って何をしでかすかわからないぃぃぃぃぃぃい!」
リーダーくんの必死な形相に、僕も含め一同ちょっと引いていた。
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