第15話 熱 ※性描写あり
ベッドの上で京弥の身体の重みが圧し掛かってくることすら心地いい。肌と肌が吸い付くようにくっついて、体温や匂いや心臓の音がどちらのものかわからない。
身体で篭絡できると思えるほど自信はないし、むしろ京弥のお情けで抱いてもらえればラッキーだと思っていた。
京弥にほかに好きな人がいるのかもしれないと思いながら、それでも諦められず自分から「もう昔のことだから忘れていいよ」とも「好きな人のところに行っていいよ」とも言えず、こうして好きな気持ちだけを持て余している。
好きな相手じゃないのに自分のことを抱かせて申し訳ないとは思うけれど、次の瞬間には自分だって京弥のことがずっと欲しかったと正当化して気持ち良くなってしまう。
体内に指が潜り込んできた衝撃は、思ったほどではなかった。ちっとも痛くはなかったし、思ったよりすんなり入った。
指が出たり入ったりしている箇所も、蠢いている中も、胎も、わきまえているように勝手に力が抜ける。そして、ひくひくと勝手に締める。
「ぁ、っは、……あ、ン、んん、ぁ……っん、ぅん、は、なんで、はじめて、なのに……」
勝手に身体が気持ち良くなる。後ろを指で掻き混ぜられているだけなのに。
京弥の指が押し潰したり、かりかりと引っかいたり、摘まんだりする場所が全て電気が流れるような快感を与えてくる。
とろとろと脳が蕩けるようで、罪悪感も正当化も嫉妬も執着もなにもかもどうでも良くなる。
胎のずっと奥が重たく、ぐずぐずに蕩けて触れられるのを待つけれど、指では届かないらしい。
おかしい。身体がおかしい。
初めてなのに。
「上手に気持ち良くなれて偉いすね」
「っ、……あ、ん……」
京弥が褒めてこめかみにキスをしてくれる。それだけでまた勝手に京弥の指を締め、快感を生む。
指だけでこんなに感じてしまうのなら、いざ京弥のものを受け入れたらどうなってしまうのだろう。
「っあ、ん、ぁ、は、っん」
期待が、また一回り快感を大きくする。
「お、かのく……、あ、もう、はや、く」
「京弥」
「……え?」
蕩けてしまった思考で必死に意味を探る。
「名前、呼んでくれたら、挿れてあげる」
「きょうや……。
きょうやくん、すき、きょうやくん、いれて、きょうやくんの、もうほし」
初めて名前を呼んで、その名前を口にする度に、好きという気持ちと、悦びと興奮が否応なく増す。
「……はぁ、相変らず感じやすい身体に気持ちいいこと大好きな感じ、なんなんだよ、くっそ……可愛いな。
そのまま俺の名前呼んでてくださいね。
今から挿れてあげるから、俺の名前で感じるようになって」
ゆっくりと胎内に熱が圧迫感を持って押し入ってくる。
やはり、痛みはわずかで、すぐに自分の中が京弥の形に広がるようだった。
「ふぁ、っぁ、は、っあ、……ぁん、んん」
挿れられただけで気持ち良かった。入口が広げられる感覚、重たい圧迫感、火傷しそうなほどの他人の熱が自分の中に入って来る感覚、気持ちいい箇所を押し潰しながら、さっき京弥の指が届かなかった奥まで。
「きょうや、きょうやくん、すき、すきだ」
「ん、俺も……。
……俺も、好きです、先輩」
馬鹿みたいに甘ったるい頭と身体は、京弥のそんな言葉からもわずかな悦びを拾う。
京弥も好きだと言ってくれた。たとえそれがベッドの中だけの睦言だったとしても嬉しい。
この一言できっとまた何年も想ってしまえる。
名前も呼んでもらえなかったとしても。
「っあ、ん、……あぁ、は、ン、ん、んやぁ、あ……きょう、っや、んん」
自分はたくさん呼ぼう。京弥の、好きな人の名前を呼ぶ度に好きな人が気持ち良くしてくれる。
「好き」という言葉は、あまりたくさん言うと困らせてしまいそうだから、その代わり、名前をたくさん呼ぼう。「好き」という意味で京弥の名前を呼べばいい。
何度か達してしまうと、出るものもなかなか出ず、だらだらと残滓のようなものを垂れ流しながら、ただ行き場のない快感だけが全身を甘い毒のように巡っていく。
京弥はゆっくりと月彦の中を出入りする。
上半身は立たせたまま、月彦の腰を熱い手で掴み、膝立ちした太腿の上に月彦の尻を乗せるように高く引き上げ深く腰を沈められる。
または、うつ伏せにされて力の入らない月彦がだらりと四肢を投げ出している後ろから閉じ込めるように体重をかけられる。
一番奥でゆるゆると揺すられると下半身から腰骨からなにもかも溶けて感覚がなくなり混ざりあって、水の中を揺蕩っているような錯覚におちいった。
ああ、これは夢で見たな、と働かない頭でぼんやりと考えた。
暗い部屋の中で、月明かりを頼りにおでこにかかる前髪をそっと指先で払って、長い睫毛が眼の淵に影を作る寝顔を堪能する。
夢中で抱き合っていたために、とっくに日付が変わっている。
結局夕飯を食べ損ねたが、残りの料理を仕上げてしまって冷蔵庫にしまっておかなければならない。
明日の朝、起きた月彦と二人で誕生日の当日を祝えばいい。仕事だからいったん家に帰らなければならないから月彦は一度早めに起こそう。
そんなことを考えながら、京弥は月彦の横で寝顔を見続けている。
「誕生日おめでとうございます。
産まれてきてくれてありがとうございます、月彦さん、陽人さん」
おでこに唇を押し付ける。
早く、二人を二人としてちゃんと祝ってやりたい。
産まれたことを祝福されて感謝される存在だとわからせたい。
どうすれば、彼らを失わずにすむのだろう。
月彦の話によると、二人とも愛されればこのまま一つの身体を二人で分け合って生きていくことが出来るらしい。
逆に、どちらか一人が愛されると、選ばれなかった方が消える。そんなことは考えたくもない。
だが、その判断はどの段階で、誰がするのだろう。
子供だった月彦と陽人にその条件をのませた存在だろうか。
月彦は「神様」か「悪魔」みたいな存在だと言った。それならば、その存在が「この人は愛されている、この人は愛されてないとでも判断するのだろうか。
だとしたら傲慢な話しだ。人の気持ちを勝手に判断して「愛されている方」「愛されていない方」などと決めつけるのか。
母親に拒絶されたときでさえ、どちらかが消えることもなく今も二人でいる。どちらかが選ばれたわけではないからだろうか。二人とも拒絶されたという判定なのだろうか。
「なにか……もっと明確な条件みたいなものがあるのかもしれないな」
月彦も、亡くなる直前だった陽人でさえも、その条件、ひいてはこの趣味の悪いゲームのルールを明確にわかってはいなかった。
ゲームで勝つには、勝利条件と敗北条件を把握しておくことが必須である。
「二人ともちゃんと愛される」ということを勝利条件のように掲げられていて、「それができなかったら選ばれなかった方が消える」という敗北結果に繋がる。
「選ばれなかった方が消える」というのは結果であり、条件ではない。
つまり、敗北条件はほかにあるのではないだろうか。
「愛されなかった方が消える」「選ばれなかった方が消える」という結果を生み出す条件が別にあるのではないか。
真夜中の思考実験はいつまででもぼんやりとしていて、雲をつかむような、それでいて核心に近付いているような、得体の知れない不安が辺りを漂っている。
隣の月彦を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、料理の続きを完成させることにした。料理を作っている間は、とても前向きで建設的なことをしている気になれる。
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