ナナたん 真実

オカン🐷

ナナたん ほんとはね

「旦那様の遺言通り、あちらは今住んでいる屋敷さえ遺してくれたら、あとは何もいらないと言うことです」

「わかったわ。もういい、ありがとう」


 桐ケ谷秘書の口を塞ぐようにママは立ち上がろうとした。


「奥様、お辛いでしょうが、これだけはお聞きになっておいた方がよろしいかと存じます」

「何、まだ何かあるの?」


 リビングのソファーに座り直し、桐ケ谷にも椅子を勧めた。


「旦那様は末期の癌でした。終末医療というか、残された時間をあちらのお屋敷で過ごされていたのです」

「えっ」

 

 ママは絶句したきり俯いてしまった。

 少し離れたところで訊いていたルナは、ティッシュをひとつかみ義母の手に握らせた。


「ですから旦那様と女性とは……あとはご自分の目でお確かめになられた方がよろしいかと」





「それでルナちゃんも一緒に行ってくれたの」

「うん、それでね、あちらの女性、パパの彼女でも何でもないの。パパがママを来させないようにしたんだって」

「じゃあ、彼女でなきゃ何なの?」


 軽いノックの音がした。


「御用がなければ失礼します」

「ありがとうございました」

「中根シェフ、今日も美味しいよ」

「恐れ入ります。では、失礼致します」


 扉が優しく閉まった。


「う~ん、ミネストローネ最高」

「でっ」

「どこまで話したっけ?」


 ルナはスプーンを握り締めたままだった。


「まだ何も話してないよ」

「「女性って女医さんだったの。看護師さんもヘルパーさんもいて。ママ、一人ずつにお礼を言ってたわ」

「ふーん、で、継続して終末医療施設に使いたいというわけなんだな」

「うん、五十嵐財団法人と名前がつくのだから融資もしますって、ママが」


 ハンバーグを一切れ口に運ぶルナ。


「隼人のリクエストのハンバーグも美味しい」

「うん、美味しいね。でも、親父、うちで最後を迎えても良かったんじゃない」

「食事中だけど、ママに下の世話はさせられないって」

「おふくろ、それくらいするだろう」

「だから嫌だったんですって。惚れた女にそんなことさせられるかって」


 ルナはグラスの水を飲んだ。


「ルナちゃん、僕がそうなったら世話してくれる?」

「いいですよ~。じっくり観察してあげる」

「それもやだな」


 フフフ

 ハハハ


 小さな足音がした。


「あら、ナナちゃん、眠れないの?」

「おみじゅ」

「お水ね」

「僕も」

「ぼくも」


 隼人と蒼一郎も起き出して来た。


「ハンバーグのソースが少し濃かったかな。トイレ行って寝るのよ」

「ママ、いっちょに」

「じゃあ、子守歌、歌ってあげましょ」

「おうたはいい」

「えっ、ママのお歌、へたなの?」

「うん、あまり上手とは言えないかな」

「うん、うん」

「こら、隼人、蒼一郎、待ちなさい」


 五十風家の週末の夜は更けていくのだった。




        【了】



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ナナたん 真実 オカン🐷 @magarikado

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