記憶の書庫
花瀬
ようこそ、そしてはじめまして
私は貴方の書庫の司書です。
書庫と言っても図書館ではありません。
ここは“記憶の書庫”です。
貴方の記憶を本として保管します。
貴方が何かを思い出そうとした時、
私がその記憶の本を探して差し上げます。
さて、今回は特別に貴方の記憶の書庫を見てみましょう。
貴方が生まれた時、私も書庫で目を覚まします。
貴方と同じでまだ何もできないので、記憶の記録を残すのに独自の暗号文字を使ってしまいます。
貴方が生まれた時を思い出せないのは
今の私がその文字を読めないからです。
貴方が幼稚園児になった時、
私も文字を少しずつ書けるようになります。
幼い記憶をおぼろけに覚えているのは、
私の文字がまだ完璧でないからです。
貴方が学生になると、テストなどがありますね。
沢山のテスト範囲からその記憶の本を細かく探すのは難しく、書庫がぐちゃぐちゃになってしまいます。
そんな時、貴方の解答用紙は空欄になってしまいます。
貴方が大人になると、私も大人になって
沢山の本を捌く必要があります。
積み重ねてきた、高い本棚は
貴方の知識や経験の証です。
貴方が歳をとってくると、私も歳をとってきます。
私は高いところにある本を扱うのは辛くなります。
貴方の物忘れが激しくなるのはそういうことです。
だから私は低い位置にある昔の本を開くと
貴方は昔を思い出します。
貴方が最後の時を迎える前に、
私は最後に記憶の書庫を整理します。
一冊ずつ開き、読んでは閉じる。
貴方には走馬灯に映るでしょう。
貴方が消えた時、私の存在はどうなるのでしょうか。
私にはわかりません。
貴方も覚えてはいないでしょう。
もし貴方がまた生まれ変わったのなら
その人生が幸せであることを願っています。
−たった一人の貴方の司書より−
また、貴方と此処で逢えますように。
記憶の書庫 花瀬 @hnsds
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