菊原慶介の人生⑲

 名取さんによる清算が終わった後、


大山の父親が、ボコボコに顔を腫らした大山を警察署に連れてきて自首させた。


朝のニュースは瞬く間に広がり、


SNSでの虚偽情報を流したことや名前を変えていることが世間に知れたことで、


大山はSNSで誹謗中傷を受け、大炎上した。


図らずも自身がしたことが自分の身に降りかかったのだ。


桐山会はSNSの影響を受け、警察の捜査が入った。


大山が過去に行った犯行が他にあるのではないかと疑いを掛けられたが、


幸いにもなにも見つからなかったらしい。


美晴は『名取名義販売事務所』の前に来ていた。


菊原さんを助けてもらったお礼にやってきたのだが、


また名取さんに会わないといけないのかと思うと、


扉を開けるのを躊躇してしまう。


「……ふぅ、よし!」


美晴は扉に手をかけ、


勢いよく扉を開けた。


「名取さん! 犬飼です、昨日はありがとうござ―――おわぁ!」


名取は地面にうつ伏せでうずくまっていた。


耳を澄ますとどうやら泣いているようだ。


何かあったのか美晴は心配そうに声を掛ける。


「あの~……どうしたんですか?」


「私との約束をほっぽかしたんです」


「うわぁ!」


美晴の横には猫山が机で作業をしていた。


相変わらずこの人は気配を感じないな……。


「約束?」


「昨日は22時から食事をするという話でしたから」


「え、もしかして……昨日の俺には時間が無いって」


猫山さんとのデートってこと?


美晴はしばらくボーっとしたあと、呆れてしまった。


「なんだ、昨日急いでた理由はそれか……」


美晴が呆れていると、名取が突然立ち上がり物凄い形相で迫った。


「それとはなんだそれとは! 昨日食事に間に合っていたら、赤のサテンを拝めてたんだぞ! あぁ~! 俺のサテンがぁ!」


「カイトさんセクハラです。それに昨日は赤ではなく紫です」


「紫かぁ……それそれでいいかも! 今日は何色なの猫ちゃん!」


名取が机の下に潜り込むと、名取の顔に強烈な前蹴りを猫山はかました。


「いや、そらそうなるわ……ん?」


美晴の後ろには菊原慶介の姿があった―――

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